第15話 瑛斗⑩

文字数 700文字

それから1週間くらいたった頃。

あの吹奏楽部が帰るとこを見かけた。

ちらっとこっちを見て玄関を出たけど、吹奏楽部は戻ってきてオレに言った。

「紗也、もーフリーだから、チャンスだよ」

「え」

それだけ言って、吹奏楽部は帰っていった。

何?

別れたってこと?

紗也。
紗也、大丈夫かな。

無意識に、足は紗也の家の方へ向かっていた。

自分ちを通りすぎて、坂を下る。



坂の途中にある公園を通りすぎようとした時。

紗也と佑樹が見えた。

何となく、木の陰に身を隠す。

二人でブランコに乗って楽しそうに話してる。

紗也は、笑ってる。

良かった。

大丈夫。

そう、佑樹の隣にいれば、紗也はきっと笑ってられる。

声は、かけられない。

オレは、自分ちの方に向かって走り出した。





次の日、朝から家の前で紗也と会った。
「あ、おはよ」

「おはよ」

何となく、二人並んで歩いた。
相変わらず、微妙な隙間のまま。

「…ねえ、あのさ…」
珍しく紗也が口を開く。

「…あの、この前さ、何か話したんだって?早坂(はやさか)くんと」

「…ハヤサカ?…て、誰?」

「吹奏楽部の…」

「あ~!…名前、知らなかった」

「何、言ったの?」

「…え、忘れた…何で?」

「…なんでもないけど。早坂くんが、何か気にしてたから」

「…マジで?謝っといて」

「ムリ、もう別れたから」

「何で?」

「…佑樹と同じ聞き方」

「…言いたくないなら言わなくていい」

「じゃあ言わない」

「…紗也もさ、男だったら良かったのに」


本音だった。

けれど、口に出しちゃいけなかったのかもしれない。


紗也の顔。

それを言ったときの紗也の顔を、オレはそれからずっと忘れられない。


何で。

何で、そんな顔するんだよ。

やめろよ。


オレたち3人で、いたいんだ。


気づいてないフリ、させてくれ。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み