第42話 瑛斗4

文字数 788文字

「ねぇ、クリスマスプレゼントさ、指輪買おうよ、指輪!お揃いのやつー!安いのでいいからさ!」

「えー?指輪ー?オレしねーよ」

「いーじゃん!しよーよ!右手の方でいーからさぁ!左手はお楽しみにとっとくんだー!」

休み時間、廊下で話しながら彩奈が腕にしがみついてきた。

「おい、ちょっと離れろって」

「いーじゃん別にー」

そんな風にしてるとこに、紗也が通りがかった。

彩奈がしがみついてるこっちを見て、紗也が固まる。

今までこんな状況にならなかったことの方が不自然だった。

けど、紗也にまだ何も伝えていないのに。

…今?
今。

今だ。

彩奈も、オレの視線に気づいて紗也の方を振り返った。


ああ、これ。
まただ。

あの時と、おんなじ空気。



紗也の顔が歪む。


紗也が、急ぎ足で、





逃げた。




オレは彩奈の手を振り払って、紗也を追った。


「紗也」

振り返った紗也はますます急いだ。


「待って」

振り返らない。


「待ってって」

「来ないで」


そうだ、ああ、わかった。



紗也といると、時間が止まる。



動けなくなる。
進めなくなる。

紗也を守ると決めた、小さな頃を思い出すから。

あの日の、体育館を思い出すから。

そこにずっと縛られてる気持ちになるから。

だからオレは、

やっぱり紗也とはいられない。


「待って」

「待たない」


階段を下りようとする紗也の腕をつかむ。

「待って」

「待たない!」

振り返った顔は、涙。

オレの手を振り払った紗也は、その反動でスローモーションで階段から、落ちてく。

バスケットボールを追うみたいに、オレは、反射的に紗也を追った。



そして、二人いっしょに落ちてった。




「…ってぇ」
背中に痛みを感じたけれど、腕の中にちゃんと紗也がいる。

「大丈夫?」

「…瑛斗は?」

「まぁ、丈夫なのが取り柄だから」

紗也は唇をぎゅっと結んで視線を落とした。

「あのさ、話したいんだけど。今日、帰り、公園で」

「……わかった」


終わりだ。
これで、紗也を守る役目は最後だと、オレは決めた。






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