第25話 紗也⑩

文字数 654文字

青山(あおやま)さん」

振り返ると、同じクラスの早坂くんだった。

早坂くんとは部活も一緒だけど、そんなに話したことはない。
声をかけられるようなことも。

ほんとに私を呼んだのかなと思ったとき、早坂くんがこっちに手を差し出した。
見ると、片手に収まるくらいの小さな箱を持ってる。

「これ、あげる」

「え?」

「チョコ」

「え…ありがと」

部活仲間に配ってるのかな。マメだな。

「じゃ」

早坂くんは私を追い抜いて足早に帰っていった。


男の子にバレンタインチョコをもらったのは初めてだ。

オフホワイトの箱に茶色のリボンがかけてあって、そこに小さなオレンジピンクの花が控えめについててかわいい。

早坂くんて、センスいいんだな。

そういえば、頭もいい。

女子としゃべってるとこはあんまり見たことないけど、顔もキリッとしてるし、吹奏楽部では密かに人気がある。
佑樹みたいになんでもできるけど、佑樹よりはクールな感じ。
まあ、あんまり話したことないけど。

たぶんみんなに配ってるんだろな。
こーゆーマメさがモテるんだろね。


ホワイトデーに、お返しは同じくらい小さめの袋にクッキーが入ったのを買った。

部活が終わって音楽室を出たとこで早坂くんを呼び止めて渡した。

「これ、お返し」

「え、あ、うん」

そう言ったとき、早坂くんは一瞬で耳まで真っ赤になった。

「えっ、何?何のお返し?」
一緒にいた男子が言うと、早坂くんは
「何でもない」
と言ってすぐにクッキーをカバンにしまった。




…え?あれ?

あのチョコ、もしかして…。
ただのチョコじゃ、なかった…?


私、もしかして瑛斗と同じくらい、鈍感なのかな。


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