第9話 瑛斗④

文字数 568文字

その年のバレンタイン。

紗也からは毎年チョコをもらっていたけど、オレのいない時に母さんに渡して帰る年もあった。

今年はなぜか佑樹も一緒だった。

「よ、なんで二人?佑樹もくれんの?」

「いや、オレも今もらってさ、瑛斗んち行くって言うから久しぶりに行こうかなって思って」
佑樹がオレと同じ包みのチョコの箱をヒラヒラ掲げて言った。

「二人、放課後も遊んでんの?」

「うーん、遊んでるってゆーか、何するでもないけど、紗也んち行ったりオレんち来たり?瑛斗も来ればいーのに」

「あー、今度行くわ」


そう言ったけど、毎日一緒の二人の間に、入れる気がしなかった。

それでも、佑樹がいると3人の空気が流れる。
それはやっぱり居心地が良くて、ここに戻れたらとオレは感じていた。

紗也と二人だと、どうもダメだ。




ホワイトデーには母さんが選んだキャンディを渡しに行った。
紗也は佑樹のとこに行ってて、オレは紗也のお母さんにそれを渡した。


佑樹のとこには行かなかった。



6年。

運動会でリレーのアンカーに選ばれた。
佑樹も一緒だ。

嬉しかったし、絶対負けないと思った。
佑樹との勝負は小さな頃の遊びを思い出させる。

佑樹と久しぶりに肩を組んだ。

どんなに近づいても、なぜだか遠く感じる。

オレたちの間に壁はないはずで、
その気持ちを断ち切るように見せても、なぜか壁を感じた。

オレたちは、特別だったはずなのに。







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