第18話 紗也③

文字数 646文字

「紗也の好きな人って誰?」

そう聞かれてその場で「いないよ」なんて言うことはできなかった。

「…佑樹かな」
「あーやっぱりー!仲いいもんねー!」

一緒にいる、イコール、好き、か。

別に佑樹のことは好きでも嫌いでもない。
そんなこと考える間でもなく特別な位置に佑樹はいる。

これが佑樹に伝わっても、
困ったからって名前出してごめんごめんて謝れる気さえする。

私の
好きなのは瑛斗?
って気持ちは、口に出せるほどじゃない。
確信もない。

だからやっぱり、瑛斗と佑樹は同じように好きなんだと思うことにした。

なのに、なんでだろ。

そんな風に思おうとすればするほど、視界の外にいるはずの瑛斗の気配まで感じてしまうようになった。

瑛斗がいるはずの空間では、気づけばいつの間にか探してる。

偶然を装って、同じクラブに入ろうとして失敗した。
第一希望をバスケにしたのに、瑛斗はバドミントン。

佑樹はおかしいって思ってるかも。

同じクラブにはなれなかったけど、同じ日に体育館での活動が当たってるから片付けはいつも重なった。

その中で、たった1日だけ。

瑛斗を近くに感じたあの日、私はやっぱり瑛斗が好きなのかもしれない、って思い始めた。

ボールの片付け場所が間違ってる、って瑛斗が教えてくれた。
そのまま手伝ってくれて、同じボールに手をかけてしまった、あの瞬間。


瑛斗の顔が近くて私は呼吸の仕方を忘れたみたいになって、動けなくなってしまった。

そしてその時、瑛斗が言ったんだ。
「一緒に帰ろう」って。

あの時の私には、それが瑛斗の告白みたいに思えたんだ。






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