第27話 紗也⑫

文字数 635文字

それから早坂くんとよく一緒にいるようになった。

同じクラスだし部活も一緒だから、特別に会ったりすることもなくて、端から見たらちょっと仲のいい友達って感じだと思う。

早坂くんは話も合うし、性格もいい。

学校が休みでも部活で会うし、どこかに出かけたりしたことはなかった。

春休みに入る前、帰り道で早坂くんが言った。

「あのさ、見たい映画があるんだけど、行かない?春休みに」

「あ、うん、いいよ」

「…やった!」

早坂くんの口癖なのか、こーゆーとこも意外でかわいいなと思った。



考えてみたら、これが初めてのデート。

駅で待ち合わせて、電車に乗って隣の駅の映画館へ向かう。

私服で会うのも初めて。
緊張した。
佑樹でも瑛斗でもない男の子と2人で出かけるなんて。
初めてのことだらけ。

早坂くんの見たいって言った映画は、私が好きだって話した洋画のアニメだった。
これは、早坂くんが見たかったっていうよりも私に見せたかったんだろうな、って感じた。

この人は一見、クールで知的、人を寄せつけない雰囲気を持ってる。
けど、そんな見た目に反して優しい。その優しさを隠そうともしない素直さもある人なんだってことがわかった。
だからきっと、女子にも人気があるんだ。

みんながたぶん当たり前に知ってた早坂くんの魅力に、私は付き合い始めてからやっと気づいた。

瑛斗との関係を幼なじみとしてやり直せたらと思いながら、やっぱり瑛斗のことを見てたんだ。
だから、他の人が見えてなかったんだ。
見ようと、してなかったんだ。

それに気づけて、良かった。



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