第24話 紗也⑨

文字数 840文字

ホワイトデーから瑛斗とは口をきくこともなく、中学生になった。

新しい生活が始まる。

これをきっかけに、ただの幼なじみとして今までと同じように過ごす選択しかないと思った。

クラスも部活も違えば、特別関わることはない。

けど、幼なじみというつながりだけは失くしたくなくて、佑樹の陸上の大会を見に行ったり、佑樹に誘われれば瑛斗のバスケの試合も見に行ったりした。

佑樹も私の吹奏楽のコンサートにはよく来てくれたけど、瑛斗が来てくれたことはなかった。

それでいいのかもしれない。

どうしたって、来てくれたら嬉しくて、私は期待しちゃうんだから。


時々廊下で見る瑛斗の顔は、どんどん大人びてきて、前よりずっとかっこよくなった。
同じボールに手をかけた日はまだ同じ高さにあった目線が、今では少し見上げるほど高くなっていた。

並んで歩かなくたってわかるくらいに。

最近瑛斗はよく女子バスケ部の女の子といる。

私は佑樹とは前ほど一緒にはいなかったけど、会えば一緒に登下校する。
それは私たちにとっては今までと変わらない光景だったけど、周りが私たちが付き合ってるんじゃないかって噂してるのは知ってた。
友達に直接聞かれたこともある。

けど、幼なじみとしか答えようがない。

噂くらいで離れる気持ちもない。

そんなの、佑樹にだって失礼だ。
佑樹だって私のこと、幼なじみとしか思ってないはずなんだから。


中学生になって初めてのバレンタイン。

佑樹には毎年の流れで義理チョコをあげたけど、瑛斗には渡すのをやめた。

周りを見れば、バレンタインが縁遠いものになったと感じたからだ。
義理チョコとか友チョコとかじゃなくて、それはイコール好きな人へ贈るもの、告白のチャンス一色みたいに感じた。

佑樹にあげるのはお父さんにあげるのと同じだ。


だから普通の日といっしょだ。

去年瑛斗にケーキを作ったドキドキを思い出し、ホワイトデーの涙を思い出し、複雑だったことを除けば。

いつも通り学校に行き、いつも通り部活に出て帰る。

校門を出ようとしたところで、後ろから声をかけられた。


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