第14話 瑛斗⑨

文字数 745文字

紗也の彼氏がどんなやつなのか、オレは興味があった。

吹奏楽部らしいと聞けば、吹奏楽の連中を見かけたら何となく勘ぐってしまう。

あいつ?
それとも、あいつ?

どいつもこいつも弱そー。
あの中の誰にも紗也を守れる気がしない。
そう思ったとき、小さな頃を思い出した。

オレと佑樹が、紗也のナイトと信じていた頃のことを。


紗也はもう、オレたちを必要としてないのかな。




部活終わりの空はもう暗い。

家の前で、坂の下から上ってくるヤツとふと目が合った。

吹奏楽部のヤツだ。

「あ」
思わず口から出てしまった。

「え?」

「や、間違った、ごめん」

あぁ…と言ってからそいつはオレの横を通り過ぎた。

「あのっ」
何かに突き動かされ、通り過ぎる吹奏楽部に声をかけた。

「え?」

「あのさ、もしかして、紗也の彼氏?」

「…そうだけど」

「あ、やっぱ、そっか」

「紗也の友達?」

「あ、うん、まぁ!」
まぁって何だよ。と、自分につっこむ。

「で、何?何か用?」

「いやー……用ってわけじゃないんだけどー、どんなヤツなのかなーって、あ、そう、オレ、幼なじみなんだよ、紗也と!だから…」
何の用もない。
何で声かけちゃったんだろ。
意味もないことをペラペラと口が勝手にしゃべる。

「…だから?」

「だから…」

だから、何だ。

「うん」

「だから………大事にしてやって」

「…何、それ」

「あ、いや、ごめんごめん、忘れて!じゃ!」

オレは逃げるように家の中へ入っていった。


何言った?オレ。
何であんなこと…。
自分のアタマもついてかないうちに、口が勝手にしゃべったんだ。


……佑樹だったら良かったのに。
それならあんなこと、きっと言わなかった。

だってそれだったら、バラバラにはならなかったから。

……いつまでオレは、そこにしがみついているんだろう。



大人になんか、なりたくない。

ずっと今が続けばいいのに。








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