第1話 佑樹①

文字数 817文字

オレたち3人はいつも一緒だった。


坂の上に瑛斗(えいと)の家がある。

坂の下にはオレの家がある。

そして、その坂の途中に紗也(さや)の家がある。



幼稚園の頃。
紗也を泣かせていた近所の悪ガキから、瑛斗とオレはいつも紗也を守った。



紗也のお母さんが、オレたち2人を紗也のナイトみたいだと言った。



けれど紗也はおとなしい女の子ってわけじゃなかった。

オレたちといっしょにヒーローごっこもしてたし、自転車でそこらじゅうを探検してまわった。



小学生。

オレたち3人は同じクラスで坂の上の学校に入学した。

3人いつも一緒だったけど、2年になって、瑛斗が学校内のチームでバスケを始めた。
朝練のために早く行くので、オレと紗也は二人だった。

オレたちはいつも無言だったと思う。

何かを話した記憶がない。

たぶんお互い、何も、意識していなかった。

それがオレたちには自然な形だった。



3年になって、紗也が学校内の金管バンドに入った。


紗也も朝練が始まり、オレは1人で登校し始めた。

学校までの道のりが何だか無性に長く感じた。

不自然だった。

何か足りないと感じていた。




4年でオレも紗也と同じバンドに入った。

紗也を迎えに行くため、毎朝坂を上るようになった。

オレたちはまた、二人になった。

不自然だった坂道が、自然な形に戻った。


4年になってクラスが離れた瑛斗とは帰りの時間も微妙にずれ、自然と紗也と二人で帰るようになった。

オレと紗也は放課後も何をするでもなくお互いの家を行き来した。

人の家なのに、日が暮れるまで「今日はごはん食べてく?帰る?」と聞かれるまで、本を読んだり宿題したりゲームしたり。

紗也とオレはいつも一緒だった。

だから、紗也のお母さんの言うところのナイトは、もうオレだけになったと思っていた。


5年になっても瑛斗だけは別のクラスだった。

ただ、オレは紗也が変わったように感じていた。

いや、ただずっと、オレが気づかなかっただけなのかもしれない。



気づいたのは、紗也の視線を、オレが追うようになったからだった。




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