第26話 紗也⑪

文字数 800文字

「青山さん!」

帰り道を少し歩いてるとこで後ろから呼ばれた。
振り返ると、また早坂くんだ。

「あれ?帰り、こっちだった?」

「いや、違うけど、話があって…」

さっき予感したばかりの考えが、ドキドキとした確信に変わる。

「…あのさ、あの、こないだのチョコ…あれ、義理じゃない」

「…そう、なんだ」

どうしよう。
ドキドキする。

「ちゃんとしたの買おうかなと思ったんだけど…大きいのだと、目立つし、お返しとか、気、遣わせちゃうかなと思って」

「…そっか」

「でさ、あの時は言えなかったんだけど…緊張して」

どうしよう。
心臓が破裂する。

「あのさ…好き、なんだよね、青山さんのこと」

息、止まりそう。
なんで、私!?

「なっ、なんで?あんまり話したことない、よね?」

「…直感…じゃ、ダメ?あと、楽器持つと急にキリッとするとこ。オレのとこからよく見えるんだよね、青山さんが。」

「あ、そ、そう、へー、そうなんだ」

どうしよう。
どうしよう、どうしよう。

「でさ…付き合ってほしいんだけど」

ど、う、し、よ、う!!!

「え、えっと、あの…」

「もし、オレのことよく知らないからって言うなら、別に好きじゃなくてもいい。…実験みたいな感じでもいいよ」

「…じ…実験?」

「うん、好きになれるかどうか。可能性、あるならお試しで」

実験か…。
それなら、まぁ…いいかも。
瑛斗のこと、考えなくて済むかもしれない。
それで早坂くんを好きになれたら。
こんないい話ないよ。

「…うん、わかった。付き合って、みる」

早坂くんが笑顔を抑えて喜んでるのがわかる。
それにつられて、私も顔がゆるむ。

「…やった!」

腰のあたりで小さくガッツポーズをして、早坂くんが言った。
それを見て、私もなんだか嬉しくなって笑った。

「…あのっ、あのさ、紗也って呼んでいい?」

「え、うん、いいよ」

「じゃ、紗也!…また明日。」

早坂くんは、小走りで帰っていった。


初めての、彼氏。

初めての彼氏は、瑛斗でも、佑樹でもなかった。






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