第8話 瑛斗③

文字数 643文字

「なんか、久しぶりだな」

「…だね」

会話が続かない。

「あ、そういえば、バスケクラブにしたんだ?」

「…そう」

「…佑樹は?」

「イラストクラブ」

「えっマジ!?運動系じゃないんだ」

「体育委員だからクラブは違うのにしたんだよ」

「…へー、ほんと、何でもできんだな、佑樹って」

「…そだね」

「…朝もさ、佑樹と行ってんの、学校」

「うん」

「…そっか」

沈黙。
沈黙。
ひたすら沈黙が続く。

「…あ、じゃあね、バイバイ」

オレの家の前で紗也が足早に坂を下ってく。

「あ、紗也!」

「…何?」

「…なんでもなかった」

「…そ」



『今度一緒に帰ろう』


何でもない言葉。
もっと前ならすぐに言えた言葉が言えなくなってた。



次のクラブの日。

体育倉庫にラケットをしまいに行くと、紗也がいた。
紗也が棚にボールを片付けてるとこを見た。

「あ。それ、違うよ」

「え?」

「こっちがクラブで使うやつのカゴ。棚のは、ミニバス用だよ。」

「えっ、そんなの分かれてるの?」

「ボールに書いてる、ほら」

「ほんとだー、もー混ぜちゃった」

「手伝う」

棚のを見てカゴに入れてく。

夢中になってるうちに、二人同じボールに手をかけた。

思わず見合せた顔の近さに、オレたちの間の空気が一瞬止まった。

紗也が、息が止まったみたいに固まってるのがわかった。



「一緒に、かえろ」



気まずさを消すために焦って出た言葉は、この前言えなかった一言だった。


それからはクラブの日だけ、紗也といっしょに帰るようになった。

だけどやっぱりオレと紗也の間には微妙な隙間があいていた。

一緒にいるのに、なぜだか寂しかった。


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