第23話 紗也⑧

文字数 699文字

「あ、紗也、いたんだ?」

「…いちゃ悪い?」

どういう意味?

「いや、悪くないけど…あ、これ」

瑛斗が紙袋をくれた。

「………ありがと」

これ。
佑樹と同じお店のだ。

「じゃあ」

「瑛斗!」

とっさに引き止めてしまった。

「…な、なに?」

「…ケーキ、おいしかった?」

違う、そんなこと聞きたいわけじゃない。

「あ、うん、母さんもおいしいって言ってたよ」

「おばさんにもあげたの…?」

「え、うん、え…ダメだった?」

ダメに決まってんじゃん。

「…瑛斗のだって言ったじゃん」

「うん、あのさ、それ、なに?なんで?佑樹にもあげれば良かったのに」

「………そだね」

怒りと悲しみと恥ずかしさがいっぺんに押し寄せてきた。

「紗也?」

「佑樹にも、あげれば良かったっ!!」

ほんとは言いたい言葉の代わりに、そんな言葉を瑛斗にぶつけて、2階の自分の部屋へ駆け上がって、思いっきりドアを閉めた。

カーテンをサッとしめて、ベッドに倒れこむ。
涙が出てくるのを抑えつけるみたいに枕に顔をうずめた。
そんなことしたって、涙は溢れてくる。

悲しいんじゃない。

悔しいんだ。

瑛斗は、私が瑛斗のことを好きになる可能性があるなんて考えてない。
いつまでも佑樹と同じだと思ってる。


それはつまり、瑛斗も私のことを佑樹と同じだと思ってるってこと。

幼なじみ。

それだけの関係で、それ以外になることはないって。

悔しくて情けなくて、ほんっとにバカみたい。
瑛斗が私を好きになるなんて、そんな想像してたこともほんとに恥ずかしい。



フラれたわけじゃない。
フラれるとこまでもいけない。


突きつけられた現実に、私は瑛斗への気持ちを、封印することに決めた。

瑛斗の持ってきた紙袋の中身は、佑樹と同じクッキーだった。












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