第46話 紗也2

文字数 1,611文字

明日はクリスマスイブだ。

失恋した身にクリスマスソングってほんとにキツイな。

楽しげな音も空気も身体中に突き刺さるのを感じながら、部室での吹奏楽部のクリスマスパーティーではクリスマスソングのメドレーをみんなで遊びで吹いたりしてた。

早坂くんもいる。

トランペットを吹く彼とふと目が合ってしまって、慌ててそらす。


あぁ、早坂くんもこんなキツイ思いをしてるんだろか。

してるとしたら、それは私のせいで…。

そう思うと気が重い。
うわべだけの楽しさを装い、楽しくもないのに笑って、私、何してんだろって思いながら家路についた。



「紗也!」

聞こえるはずのない声が後ろから追ってきた。

振り向けば、早坂くん。

これで何度目?
でももう、こんなことあるはずないのに。

「…ど、どしたの?」

「…元気?」

「え、う、うん」

「ウソでしょ」

なんでわかるんだろ。

「アイツと…どうなった?付き合ってるの?」

「アイツ…?…あ、ううん…あの…フラれた」

「えっ、何で!?」

「…幼なじみとしか思えないって」

「…マジ?…オレ、アイツも紗也のこと好きなんだと思ったから…だから…」

『だから?』何なんだろう。
早坂くんは1人でブツブツ言って、それからこっちに向き直った。

「じゃあ、紗也の気持ちは…どうなの?」

「私は…もう、スッキリしたよ」

強がりではない。本当の気持ちだ。

「…それなら、遠慮しない。…紗也、オレともう一回、付き合って」

「……えぇっ!?」

「オレ、やっぱり紗也のことあきらめられない。紗也がアイツと付き合えるならそれが紗也にとって1番だと思ってた、いや、思おうとしてた。それでもつながりをなくしたくなくて友達としてって言ったけど、どうしてもそんな風に思えない。部活の時だって、ずっと紗也のこと見てる。どーしたって目で追ってる。探してる。会えなくても想ってる。手をつなぎたいって毎日思ってる。今度は実験でいいなんて言わない。オレのこと、好きになれるならなってほしい。オレのことだけ、見てほしい。オレ、どうしても紗也がいい。好きなんだ!絶対絶対、紗也がいいんだ!」




この人にここまで言われて、ノーと言う人がいるんだろうか。

あんなに傷つけつけた人にここまで言われて、涙が出ない人なんているんだろうか。

だって、早坂くんの言ってる「好き」は、私の思う「好き」と同じだったから。

目で追って、探して、手をつなぎたくて。

素直に、ただ心が動いた。

私は、この人が好きだ。

好きになれると思ったけどダメだったなんてことはない。

お揃いのキーホルダーも、もらったブレスレットも大切にしまってある。

大切に。

この人の仕草や言葉や行動に、私の心は今までも何度も動いた。

それを恋ではないと思おうとしていたのは、瑛斗への気持ちに決着がついてなかったから。

早坂くんのことは、きっと、ちゃんと好きだった。

…もう一度?

遅くはないのかな。

今までずっと、進めずにいた。
気持ちを抑えて抑えて。
想いを口にしなかった。
その時間が長すぎた。

でも今はもう、知ってる。

いっしょにいられる時間は無限ではないんだと。

好きだという気持ちがあるなら、堂々と向き合えばいいんだと。

早坂くんがもう一度と言ってくれるなら、もう一度チャンスをくれるなら、
今度は私もきちんと早坂くんを見て恋をしたい。

今ならできる。

この気持ちなら、私たちは前に進める。


「…プレゼント、用意してないけど…クリスマス、一緒に過ごしてくれる?」


早坂くんは何度もうなずいて、それから、やっぱり、小さくガッツポーズをした。


明日はきっと、伝えよう。

私もあなたが好きなんだと。


その言葉をプレゼント代わりに…なんて、ズルいかな。


雪がチラチラ降ってきて、

私たちはやっと、同じ気持ちで手をつなぐ。

これからはこの人に、いっぱいいっぱい想いをあげよう。
今までもらった分よりもっと、私の気持ちが届くように。


家について私は引き出しからブレスレットを取り出した。

もらったときよりもずっと、キラキラとして見えた。
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