一日目(木) 花粉症とドゥッペレペだった件

エピソード文字数 1,729文字

「ぶえっくしょい!」
「えっと……アキト君、大丈夫?」

 いつも通り昼休みに集まり、食事を終えたズッコケない三人組。その頭脳担当である火水木明釷(ひみずきあきと)は、花粉症のためマスクを着けていた。

「ゲーム実況者とか歌い手としてデビューするんだろ?」
「あるあ……ねーよ。仮に歌うなら拙者より、うってつけの人材がいるのでは?」

 ガラパゴスなオタクことガラオタが首で示した先にいるのは、可愛い担当の男の娘。冷え症なのか未だに掌が半分も隠れる大きめのセーターを着た相生葵(あいおいあおい)は、自分のことだと時間差で気付いたらしい。

「えっ?」
「確かに葵なら男も女もホイホイ釣れそうだな。何かそれっぽい真似してくれよ」
「えぇっ? ぼ、僕そういうの見ないからわからないよ」
「なら何の物真似ならできるんだ?」
「ええぇっ? も、物真似は確定なのっ?」
「ちなみに拙者はピ○チュウの真似ができるお」
「アキトのピ○チュウまで3、2、1、ハイッ!」
「ドゥッペレペ!」

 まさかのゲーム版かよっ!
 予想の斜め上の物真似に、俺と葵の腹筋が崩壊した。

「他には、某アンパンの真似もできるお」
「や……やってみてくれ」
「バ○キンマン、もう許さないぞ!(裏声)」

 お、今回はまともか?
 ただ姉貴のド○えもんよりクオリティは高いが、そっくりという程でもない。

「本当の本当に怒ったぞ!(裏声)」
「ん?」
「ガチのマジギレだぞ!(裏声)」

 腹筋が爆死した。本人が言いそうにない系の物真似は卑怯だろ。
 向かいでは完全にツボに入ったのか、葵が腹を抱えて笑っている。あーあー、笑い過ぎて咳き込み始めちゃったけど大丈夫なのか?

「相生氏、大丈夫? おっぱい揉む?」
「えっ……げほっ、えほっ!」
「更に追い打ちをかけるな。本当に花粉症かよお前は」
「問題ナッスィン! というより、拙者はまだマシな方ですので」
「あー、確かに。妹の方はゾンビみたいになってたな」
「そうそう、その腐った妹から伝言があったのを忘れてたお」

 双子の妹をぞんざいに扱う兄……いや、この場合の腐ってるは別の意味か。
 アキトはチラリと隣にいる無口少女二人を見た後で、声を小さくして話す。

「米倉氏と相生氏は、ホワイトデーのお返しを既に決めているので?」
「いや、全くだな」
「ぼ、僕もまだ……」

 雛祭りが何事もなく過ぎ去り、ホワイトデーは週末に迫っている。
 基本的にはバレンタインと同じ曜日になるが、今年は閏年だったため一日ずれこみ日曜日。今回は模試もなく、完全な休日であるため渡すとしたら月曜日だろう。

「決めてないなら今週の日曜、我が家で作らないかとのお誘いだお」
「は?」
「つ、作るって、手作りってこと?」
「手作りで貰ったなら、手作りで返すべきじゃない? とのことですな」

 確かにそうかもしれないが、女子の手作りと男子の手作りはハードルが違う気もする。現に外見だけなら中間的存在である葵も、難しい顔をして考え込んでいた。
 ネズミースカイから二週間。あれからリリスとの進展はないらしい。
 恐らく葵自身も焦り過ぎだったと気付いたんだろう。我に返った今はきっと、次のチャンスに備えて地道に好感度を上げているに違いない。

「仮に作るとして、どうしてアキトの家なんだ?」
「不器用な男が集まって、クッキー作りに四苦八苦してる姿が見たいらしいお」
「…………腐ってんな」
「サーセン」
「えっと……台所とか借りて、アキト君のご両親の邪魔にならないの?」
「昼は二人とも店なので、その辺りは問題ないお」

 店っていうと、噂の火水木文具店か。
 正直お返しをどうするか悩んではいたし、手作りなら費用も安く済む。それにアキトの家ってのも少し興味があるし、行ってみるのも面白そうだ。

「ん……俺は良いけど、葵はどうする?」
「じ、じゃあ僕も行こうかな」
「トンクス!」
「はいここでピ○チュウ」
「ドゥッペレペ!」
「ドゥッペレペ!」
「流石は米倉氏。バッチリだお」
「っ…………っ……っ――――」

 葵が呼吸困難になる魔法、ゲットだぜ。ドゥッペレペ~。
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登場人物紹介

米倉櫻《よねくらさくら》


本編主人公。一人暮らしなんてことは全くなく、家族と過ごす高校一年生。

成績も運動能力も至って普通の小心者。中学時代のあだ名は根暗。

幼馴染へ片想い中だった時に謎のコンビニ店員と出会い、少しずつ生活が変わっていく。


「お兄ちゃんは慣れない相手にちょっぴりシャイなだけで、そんなあだ名を付けられた過去は忘れました。そしてお前は今、全国約5000世帯の米倉さんを敵に回しました」

夢野蕾《ゆめのつぼみ》


コンビニで出会った際、120円の値札を付けていた謎の少女。

接客の笑顔が眩しく、透き通るような声が特徴的。


「 ――――ばいばい、米倉君――――」

阿久津水無月《あくつみなづき》


櫻の幼馴染。トレードマークは定価30円の棒付き飴。

成績優秀の文武両道で、遠慮なく物言う性格。アルカスという猫を飼っている。


「勘違いしないで欲しいけれど、近所の幼馴染であって彼氏でも何でもない。彼はボクにとって腐れ縁というか、奴隷というか、ペットというか、遊び道具みたいなものでね」

冬雪音穏《ふゆきねおん》


陶芸部部長。常に眠そうな目をしている無口系少女。

とにかく陶芸が好き。暑さに弱く、色々とガードが緩い。


「……最後にこれ、シッピキを使う」

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