三日目(水) 人生ゲームが波瀾万丈だった件

エピソード文字数 4,997文字

『ヨン! ヨン! ヨン! ヨン!』

「……何の音?」
「あ、拙者の携帯なり………………はい、もしもし?」
「?」

 画面を見たアキトは席を外すと、珍しく普通に応答しながら廊下へ出ていった。
 お化けのコスプレをしたままだが、マスクさえ外しフードをかぶっていなければ大して目立たない。寧ろ某魔法学校の生徒みたいなローブ姿は、若干恰好良いくらいだ。

「さてと。それじゃあ、そろそろ出しちゃおうかな」
「何をだ?」
「ふっふっふ。刮目しなさいっ!」

 魔法少女ムネカ・マジカこと火水木は不敵な笑みを浮かべつつ立ち上がると、普段お菓子入れにしている引き出しを開ける。
 どうやら強引に突っ込んで入れたらしく中身を取り出すのに手間取りつつも、少女は引き出しのサイズと同じくらい長細い箱を引っ張り出してきた。

「じゃーん! 人・生・ゲェェェェェェェムッ!」
「また持ってくるのも大変だったろうに、いつの間に用意していたんだい?」
「勿論、日曜に! こういう時間が掛かるゲームは、流石に普段できないでしょ?」
「あれ? ミズキ、これ2~6人用って書いてあるけど?」
「嘘ぉっ?」
「大丈夫だ、問題ない」

 通話を終えて戻ってきた第七勢力、アキトはドヤ顔で応える。てっきり「一番良いゲームを頼む」とか言ってくるのかと思いきや、ガラオタは着ていたローブを脱ぎ始めた。

「拙者は参加できないので、丁度リミットぴったりだお」
「ああ、9歳以上向きだもんな」
「ヒドスッ!」
「もしかして店の手伝い? それならアタシも――――」
「天海氏は企画者ですしおすし」
「えっと……お店って?」
「良い質問だお相生氏。火水木家は代々、文具店なのである」
「そ、そうだったんだ」
「まあ文具店って言っても、漫画雑誌とかプラモデルとか置いてあるけどね。この人生ゲームも、店に置いてあったのを持ってきた感じだし」
「えぇっ? そ、それ、大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫!」

 何となく、この二人がオタクに染まった過程が見えた気がする。過程っていうより、家庭って漢字の方が相応しいかもしれないけど。

「家を継ぐのは長男の役目。ここは拙者に任せていただこう」
「アキト……お前…………」
「この店番が終わったら拙者、刀っ娘ラブのアナログ型マクロ作るんだ」
「お前……最近ちょっと丸くなってないか?」
「ちょま」
「確かに前にボランティアで顔を合わせた時よりも、一回り太ったような気がするね」
「ぶっしゅ!」
「ひょっとして兄貴、ナース服も実はパッツンパッツンで着れなかったとか?」
「あぐもんっ!」

 割とガリガリだったイメージのガラオタだが、ふと胸を張った姿を見て思わず突っ込み。追加攻撃が入った辺り、どうやら俺の気のせいではないらしい。
 脱いだローブを黙って鞄に詰め込んだアキトは、結果にコミットするダイエットCMを真似するように俯いたままゆっくり回転し始めると低音を口ずさむ。

「ブゥーチッブゥーチッ♪ ブゥーチッブゥーチッ♪」
「「ウェンザナイッ!」」

 まさかの打ち合わせなしに火水木とハモった。
 笑いの渦が巻き起こる中、ペーペケッペッペペーペーペペできなかったアキトは下を向いたまま退場していく。きっと店の手伝いが、丁度良い運動になるだろう。
 出口前でされた敬礼には皆で応えてガラオタを見送りつつ、人数的な問題も解決したところで俺達の人生ゲームが始まった。



 ★★★



「ほいこれ説明書、ユメノン宜しくっ!」
「はいはい。まずは車を決めてください」
「ぼ、僕、青の車でもいいかな?」
「葵だけに青ってか?」
「車の色くらい、早いもの勝ちで決めても良いんじゃないかい?」
「ならアタシ、赤い車がいい!」
「じゃあ俺は緑で」

 ――少女散策中――

「あれ……? 緑の車はあるけど、緑色の旗が無いみたい……」
「おい不良品だぞ、火水木文具店」
「あー、だから脇によけてあったのかしら? まあその程度、別にいいでしょ?」
「人生の最初から随分と不吉だね……夢野君、旗はどういう時に使うんだい?」
「えっと、家を建てた時とかに目印として使うんだって」
「じゃあネックは旗の代わりに人を使うってことで」
「マジですか?」
「……マジ」



 ★★★



「……野球選手に就職」
「うーんと、これかな? 冬雪さんが高収入の職業ゲットでーす」
「……女で野球選手は厳しい」
「いや、そこにリアリティを追求するなよ」
「次はアタシの番ね! そぉいっ!」

『カラララララララララ――――』

「ひ、火水木さん。あんまり強くやると壊れちゃうよ?」
「これくらいやらないと、でかい数も出ないってもんよ!」
「十だね」
「ほら見なさいっ! 何々、このマスまでに就職できなかったらフリーター……へ?」
「大は小を兼ねると言うけれど、何でも大きければ良いというものでもないかな」
「………………」
「気のせいか今キミは、随分と失礼なことを考えていなかったかい?」
「滅相もございません」



 ★★★



「好きな数字二つに金を賭けてルーレットを一度だけ回し、当たったら賭け金の五倍が手に入る……だそうよネック。面白そうじゃない」
「期待値は低そうかな」
「やってやろう。全財産七万三千ドルを、今この時に全てつぎ込む!」
「えぇっ? 櫻君、まだ序盤だよっ? 本気なのっ?」
「まあ落ち着けって葵。最初だからこそ後で巻き返せるし、こういう時は勢いが大切だ。俺の才覚と潔さをとくと見るがいい! 指定する数字は櫻の三と九だっ!」

『カラカラカラカラカラッ』

「……四」
「夢野! 俺に約束手形の準備をっ!」
「はいはい」
「確かに潔いね」
「ま、負けたのに恰好良く見えるけど……何か複雑だなあ……」



 ★★★



「えっと……あっ! 結婚だ! 夢野さん、女の人を貰ってもいいかな?」
「はい、どうぞ」
「今乗った女の人がオイオイなんでしょ?」
「えぇっ? 違うよっ? 仮にそうだとしたら今まで僕の車には誰が乗ってたのっ?」
「んー……ネック?」
「勝手に人をカップリングするな。俺はちゃんとマイオープンカーでドライブ中だ」
「でも前に確か、キミの愛は性別を超えたとか何とか――――」
「さあさあ次は誰の番だっ?」
「……ユメの番」

『カラカラカラ』

「子供が生まれて出産祝い。全員から二千ドル貰う……だってよ」
「えー? 仕方ないなー。おめでとユメノン」
「お、おめでとう夢野さん」
「……おめでとう」
「僅かばかりだけれど、お祝いだよ」
「俺からの餞別だ。遠慮なく受け取ってくれ」
「米倉君! さりげなく約束手形を渡さないの!」



 ★★★



「やったねツッキー、昇進できるよ!」
「おいやめろ」
「ネックって結構こういうの知ってるけど、ひょっとしてオタ?」
「お前の兄貴の影響だよっ! それより先生って、昇進すると何になるんだ?」

『ペラリ(校長先生)』

「確かに給料は増えるけれど、下からも上からも板挟みになりそうな立場だね」
「あ、阿久津さんの校長先生って、どんな感じなのかな?」
「スピーチの最中に寝てる奴とかいたら、一人ひとり名指しするとかじゃないか?」
「先日、生徒が廊下を走っていました櫻。転んで大怪我をしないようにするために櫻。そして他の人にぶつかって櫻。怪我を櫻。させない櫻。ため櫻にも櫻」
「最早ただの語尾じゃねーかそれ」

『カラリ……』

「冬雪さんも昇進?」
「……メジャーリーガーは流石に無理」
「戻すな戻すな! 別になっても大丈夫だから!」



 ★★★



「いい加減フリーターから脱したいわね……せいっ!」
「あ! ミズキ、家を買えるマスへようこそ。はい、旗」
「……フリーター、家を買う?」
「お金がねー……一番安いマンションにしておくわ」
「子供五人に対して、フリーターでマンション暮らしは中々に過酷そうかな」
「次は俺の番か」

『カラカラカラカラッ』

「米倉君も家を買うマスだけど、どうする?」
「約束手形をくれ! 一番高い家を買うぞっ!」
「キミはお金を湯水の如く浪費していくね。普段の倹約っぷりが嘘みたいだよ」
「はい、どうぞ。あ、でも緑の旗が……」
「そうだったな。仕方ない」

『ブスリ』

「えぇっ?」
「躊躇いなく自分を屋根に刺したわね」
「大方、借金に手が回らなくなったんだろう。あの家には近寄りたくないね」
「勘違いするな。これはあれだ……ほら、家の屋根についてる……シャチハタっ?」
「「「シャチホコ!」」」



 ★★★



「お土産として高級時計を手に入れる……だそうだよ」
「はい葵君、高級時計」
「あ、ありがとう」
「これで五万ドルとは驚きだね。どうも物の価値やセンスはいまいちわからないよ」
「でも前に水無月さんがボランティアで着てた服、凄く可愛かったよ?」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、あれは売られていたコーディネートをそのまま着ただけなんだ。服の合わせ方というのは、いまいちわからないかな」
「じゃあじゃあ、今度四人でショッピングとか行かないっ?」
「……行きたい」
「いいね。楽しみだよ」
「それなら……ってゴメン、私の番だったっけ」

『カラカラカラ』

「夢野君もアイテムみたいだね。珍獣を手に入れる……だそうだけれど」
「え、えっと……珍獣珍獣…………へ?」
「どうしたの葵君?」
「ち、珍獣、二十万ドルだって……」
「何だとっ?」
「後半になって価格が高騰してきたのかな? ボクは一回休みだから、天海君の番だね」
「それならアタシも、何かしらアイテムをゲットよ! ふぉいっ!」

『ガッ! カララ……』

「ライオンを飼うことになり、五万ドル払うそうだよ」
「……フリーター、ライオンを飼う?」
「ユメノン! 約束手形プリーズ!」
「どんどん経済格差が激しくなっていくな……そして火水木、地獄へようこそ」
「ま、まだまだこれからよっ!」



 ★★★



「……バナナの皮で派手に転んだ。生命保険を払わなければ四万ドル払う」
「アンタ屋根に突き刺さってる筈なのに、転ぶなんて凄いわね」
「どうするの米倉君?」
「勿論、生命保険だ」
「流石は人生ゲーム。ギャンブルは良くないという教訓が伝わってくるよ」
「絶望っ……! ネック、地下行き確定っ……!」
「お前も借金持ちだろ」
「で、でもバナナの皮で転んで四万ドルって、どんな大怪我したのかな?」
「そりゃ決まってるじゃない。バナナだけに――――」
「言わせねーよっ?」



 ★★★



「あ、あれ? これって櫻君がやったギャンブルマス?」
「うーんと、ちょっと違うみたいね。好きな数字一つにお金を賭け、ルーレットを一度回し当たったら賭け金の十倍が手に入る……だから、ネックのより厳しいっぽいわ」
「ほほう、さあ葵よ。お前も全財産を賭けるのだ!」
「えっと……じ、じゃあ賭けるのは一万ドルで、数字は一にしておくよ」
「何だとっ? それでも男かっ?」
「期待値的にも正しい選択だね。そこのギャンブラーは放っておこうか」

『カラカラカラカラッ』

「えっ? や、やった!」
「何……だと……?」
「……大当たり」
「おめでとうございまーす。賞金の十万ドル進呈です!」
「ええいっ! こうなったら大魔王自ら、手を下してくれるわっ!」
「あっ! 櫻君、僕の車を池に沈めないでよっ!」
「流石ですぜ大魔王様! 次はあっちの二十万の珍獣を持つユメノンの車を――――」
「……お祓い」

〈2HIT!〉

「「すいませんでした」」
「まるで子供だねキミ達は」
「衣装的に、悪魔は私と水無月さんの筈なのにね」
「で、でも人生ゲームの大魔王って、もしいるなら一体何になるのかな?」
「「「「「…………」」」」」
「えっ? えっ?」
「聞きましたか大魔王様。あのメイド、触れてはいけない禁忌を口にしましたぜ」
「愚か者め! 旗となり永遠の時を悔やむがよいっ!」
「ええっ? あっ! 止めてよ火水木さんっ! 僕を屋根に刺さないで――――」
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登場人物紹介

米倉櫻《よねくらさくら》


本編主人公。一人暮らしなんてことは全くなく、家族と過ごす高校一年生。

成績も運動能力も至って普通の小心者。中学時代のあだ名は根暗。

幼馴染へ片想い中だった時に謎のコンビニ店員と出会い、少しずつ生活が変わっていく。


「お兄ちゃんは慣れない相手にちょっぴりシャイなだけで、そんなあだ名を付けられた過去は忘れました。そしてお前は今、全国約5000世帯の米倉さんを敵に回しました」

夢野蕾《ゆめのつぼみ》


コンビニで出会った際、120円の値札を付けていた謎の少女。

接客の笑顔が眩しく、透き通るような声が特徴的。


「 ――――ばいばい、米倉君――――」

阿久津水無月《あくつみなづき》


櫻の幼馴染。トレードマークは定価30円の棒付き飴。

成績優秀の文武両道で、遠慮なく物言う性格。アルカスという猫を飼っている。


「勘違いしないで欲しいけれど、近所の幼馴染であって彼氏でも何でもない。彼はボクにとって腐れ縁というか、奴隷というか、ペットというか、遊び道具みたいなものでね」

冬雪音穏《ふゆきねおん》


陶芸部部長。常に眠そうな目をしている無口系少女。

とにかく陶芸が好き。暑さに弱く、色々とガードが緩い。


「……最後にこれ、シッピキを使う」

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