十月(下) 注文の多い陶芸部

文字数 3,910文字

 問、以下の質問に対してYESかNOで答えよ。

・共通編
 一、自分の苗字か名前が珍しい
 二、顔面偏差値は平均以上だと思う
 三、髪の色が黒以外だ
 四、誰にも負けない趣味・特技がある
 五、一人暮らしである。または実家暮らしだが両親は家にいないことが多い
 六、少人数の文化部に所属している
 七、通っている学校が他にない特色を持っている
 八、男の娘や雄んなの子の知り合いがいる。または自分自身がそうだ
 九、彼女(彼氏)いない歴=年齢だ
 十、財閥や理事長の子、アイドルや飛び級といった特別な生徒がいる

・男性編
 一、妹がいる
 二、幼馴染(幼稚園からの付き合い)がいる
 三、母親がかまってちゃんだ
 四、担任または部活動の顧問が若い女性だ
 五、料理ができる
 六、独り言が多い
 七、筋肉質ではない
 八、同性より異性の友人の方が多い
 九、物事に対して消極的または鈍感だ
 十、高校生になってから女子と一緒に出かけたことがある

・女性編
 一、身長が平均より低い
 二、バストがE以上だ
 三、アイドルには興味がない
 四、髪を下ろしたら腰より下まである
 五、大食いだ
 六、面倒見がいい、または世話焼きだ
 七、つい暴力を振るってしまうことがある
 八、同級生の男子に水着姿を見せてもOK
 九、更衣室以外の場所で着替えたことがある
 十、腐女子やレズ、エロゲー好きなど人に言えない趣味嗜好がある



「火水木クン。これ、教師編はないんですかねえ?」
「無いわね。イトセンは若いから今の自分でやってみても大丈夫そうだけど、まあ基本的に大人は高校生だった頃を思い出してやって頂戴」
「では、伊東は珍しい苗字に入りますか?」
「却下よ。伊東は伊藤判定もあるから、クラスにいそうなのはアウト」
「厳しいですねえ」

 はい皆さん、どうもおはこんにちばんは。本日の進行役を務める伊東先生です。
 今回の舞台は休日の陶芸室。ハロウィン前に作品を100個作ろうとする火水木クンに呼ばれた時の話ですので、出てくる女の子は一人だけなんですねえ。
 今までに比べると華が少ないかもしれませんが、最後までお付き合いいただけると助かります。先生、面白おかしくなるよう頑張って話しますので。

「共通編と男性編、答えるのは全部合わせて二十項目でしょうか?」
「そそ。一問につき5点だから」
「先生、共通の九と男性の七しか当てはまりませんでした」
「10点とか余裕で失格ね」
「道理で先生、青春できなかった訳です」

 ちなみにこれは何かと言うと、火水木クンが作った『ラノベチェッカー』だそうです。自分がラノベの登場人物にどれだけ相応しいかわかるらしいですよ。
 テスト前なら仕事も沢山あったんですが、今は比較的余裕のある時期。事務作業もなくボーッと眺めていたら、暇ならやってみてよと渡されちゃいました。

「一応参考に学園ラブコメの男主人公を三人くらい調べたけど、主人公Rは65点、主人公Hは75点、そんでもって主人公Kは90点だったわね」
「しかし高校生云々というより、環境的な問題が多いですねえ。特に苗字や名前なんて改名するしか方法がないと思うんですが、そんなに重要なんでしょうか?」
「重要よ! 最重要事項よ!」

 削り作業を一旦止めた火水木クンは黒板へ。何かと思えば、チョークを手に取るなり『十六夜 小鳥遊 比企谷 都築 帝野』なんて書くじゃありませんか。
 さてさて皆さんに問題です。この五つの苗字、全て読めますか?

「はいイトセン、読んでみて」
「イザヨイとタカナシだけ読めますねえ。その次は……ヒキタニでしょうか?」
「それぞれヒキガヤ、ツヅキ、ミカドノよ。後は漢字は忘れちゃったけど、キリンヅカとかジュウリンザカ、それにウツリギなんて苗字もあったわね」
「何だか駅名みたいですねえ。先生も教師ですから、よく読めない名前とかに悩まされます。火水木クンも珍しい苗字ですし、間違えられませんか?」
「水木って苗字があるから間違いは少ないけど、悩んでる人を見かけることは多いわね。ウチの兄貴はこう書いて明釷って名前だから、もっと苦労してるみたい」

 再び削り作業に戻る火水木クン。最初は一切喋らず黙々とやってましたが、今では上達して作業に慣れたため話しながらやるくらいに余裕みたいですねえ。

「ちなみにアタシは45点。でも最近二つ増えたから今は55点ね」
「おお、凄いじゃないですか」
「まあいくら点数高くても無理無理。アタシみたいなの好きになる男なんていないし、ヒロインになるようなタイプじゃないって自分で一番よくわかってるから」
「そんなことはありません。見ている人は見てくれていますよ」
「ありがとイトセン。でも今は主人公とヒロインの恋愛を陰でサポートする、名脇役って感じの立ち位置に満足してるからいいの」
「確かに人の恋路を応援するのも青春ですねえ」

 先生も昔は『高校生』というものに夢を見ていた気がします。



 屋上が常に開放されてて。
 購買でパンを奪い合って。
 髪とか服装が自由で。
 保健室をいかがわしいことする為に使うカップルがいて。
 俺次サボるわーとか言って。
 テストの一位は常にチャラいイケメンで。
 文化祭にはベストカップル賞がある。



 …………まあ現実は、何一つそんなことはなかったんですけどねえ。

「入学前は自分で部活を作ろうとか考えてたけど、そんなの現実的にできる訳ないのよね。あーあ、こんなことならもっと早く陶芸部に入れば良かったなー」
「パソコン部に青春は無かったんでしょうか?」
「オタサーの姫扱いはされたけど、何か違うのよね。。まあこれといって入りたい部活がないから、知り合いと兄貴がいるって理由だけで行っただけだし」
「青春できる部活は色々あると思いますけどねえ」
「じゃあイトセン、片っ端から言ってみてよ」



「火水木クンですと、テニス部とか似合いそうですねえ」
「滅びよ……」

「バスケ部も良いかもしれません」
「頭が高いぞ」

「では水泳部はどうでしょう?」
「俺はフリーしか泳がない」

「剣道部では?」
「あんこ入り☆パスタライス♪」



「どれもこれも元ネタが分かりませんが、運動部は却下ということですかねえ?」
「暑苦しい青春はちょっとね。今の時代は文化部よ」

 先生の頃は運動部が定番だったんですが、何ともジェネレーションギャップを感じちゃいます。友情・努力・勝利の時代は終わってしまったんですねえ。




「文化部と言われると、屋代ならやはり吹奏楽部でしょうか?」
「吹奏楽部が舞台のアニメが増えてきたら考えるわ」

「となると軽音楽部はどうでしょう?」
「放課後にティータイムがあればねー」

「美術部も王道ですねえ」
「絵はちょっと苦手なのよ」

「芸術なら写真部もありました」
「うーん、たまゆらは撮ってみたいかも!」

「後は英会話部とか」
「仮に帰国子女が来ても、カタコトの日本語で話してくれるでしょ」

「演劇部なんて」
「色濃いキャラが多くて辛そう」

「手芸・料理部」
「女子力(笑)がいそうだから却下」

「書道部」
「地味」

「茶道部」
「地味」

「華道部」
「地味」

「陶芸部」
「地味」



「酷いですねえ。先生、割とショックです」
「少なくとも入学時はそう思ってたからスルーしたわね。ただ部活の善し悪しって、どちらかというと活動内容より顧問の方が大切な気がしない?」
「確かにそうかもしれませんねえ」
「その点、イトセンは大当たりね。陶芸部だってカラオケ行ったりボーリング行ったり、家庭科室借りて料理回とか唐突なスポーツ回とかすれば充分青春できるし」
「青春に協力したい気持ちはありますが、できれば先生という立場上あまり無理な注文や無茶な行為は勘弁してほしいところですねえ」

 今日みたいな休日出勤も辛いんですよ。運動部の先生、いつもお疲れ様です。
 …………ただ、火水木クンの言いたいこともわかります。
 先生、自分が生徒だった頃は同じように考えてました。だからこそ教師になった今、できる限り生徒の望みを叶えてあげたいと思っていたりします。

「分かってるってば。だからこうして陶芸だってちゃんとやってるじゃない」
「火水木クン一人のために部室を開けるのは疲れますが、先生も皆さんのコスプレには興味あります。100個目指して頑張ってほしいところですねえ」
「まあアタシが頑張ってるのは、コスプレのためだけじゃないんだけどね」
「違うんですか?」
「言うならばヒロインのサポートを務める脇役の仕事って感じ? こうでもしないと、何を遠慮してるんだか陶芸部に顔出さないんだから……っと、でーきたっ!」
「おおっ! ついに100個目が完成ですかっ?」
「20個くらい削りで失敗したから、念のため30個くらい作り直しね。イトセン、まだ時間あるでしょ? 二、三回ろくろ挽くから、もうちょっとだけ宜しくねん♪」
「はあ……仕方ありませんねえ」

 大人になると、夢を見ることは難しくなります。
 何故なら夢を見れなくなる代わりに、夢を見せることができるからです。
 未来を担う若者の青春を守るため、今日も先生は名脇役としてサポートしましょう。頑張ってる火水木クンには、差し入れの一つでも買ってくるとしますかねえ。



 …………先生、今物凄く良いこと言ったと思いません?(台無し)
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登場人物紹介

米倉櫻《よねくらさくら》


本編主人公。一人暮らしなんてことは全くなく、家族と過ごす高校一年生。

成績も運動能力も至って普通の小心者。中学時代のあだ名は根暗。

幼馴染へ片想い中だった時に謎のコンビニ店員と出会い、少しずつ生活が変わっていく。


「お兄ちゃんは慣れない相手にちょっぴりシャイなだけで、そんなあだ名を付けられた過去は忘れました。そしてお前は今、全国約5000世帯の米倉さんを敵に回しました」

夢野蕾《ゆめのつぼみ》


コンビニで出会った際、120円の値札を付けていた謎の少女。

接客の笑顔が眩しく、透き通るような声が特徴的。


「 ――――ばいばい、米倉君――――」

阿久津水無月《あくつみなづき》


櫻の幼馴染。トレードマークは定価30円の棒付き飴。

成績優秀の文武両道で、遠慮なく物言う性格。アルカスという猫を飼っている。


「勘違いしないで欲しいけれど、近所の幼馴染であって彼氏でも何でもない。彼はボクにとって腐れ縁というか、奴隷というか、ペットというか、遊び道具みたいなものでね」

冬雪音穏《ふゆきねおん》


陶芸部部長。常に眠そうな目をしている無口系少女。

とにかく陶芸が好き。暑さに弱く、色々とガードが緩い。


「……最後にこれ、シッピキを使う」

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