十八日目(木) 俺の妹がお邪魔虫だった件
文字数 3,138文字
「おっ? これなんて面白そうッスね! えー、貴方は沢山の動物と旅をしてる旅人ですが、旅を続けるのが困難になってきたので動物達と別れることになりました。ライオン、象、羊、馬、牛、猿の中から、別れる順番とその理由を答えてください……だそうッス!」
気が付けば王様ゲームだけで結構いい時刻になっていた夕方の陶芸室。普段なら解散するところだが梅が来るため待たなければならず、他メンバーもそんな俺に付き合ってくれていた。
その待ち時間にやっているのが、テツの企画が破綻した場合を見越して火水木が用意していた心理テスト。ジャンケンで順番を決めた俺達は、本の中からテストを一つ選んでは全員に答えてもらいを繰り返し、交代で回している最中だった。
「ふむ。動物の部分をもう一度言ってもらえるかい?」
「ライオン、象、羊、馬、牛、猿の六種類ッスね」
この手の心理テストは自分でやる分には何も考えずに答えられるが、どうにも人から出されると何を示しているのかという本質を深読みしてしまいがちになる。
普通に食費の掛かり具合や役立ち度から考えれば、象、ライオン、猿、牛、羊、馬の順番で別れるのがベストな気がするが……大抵の場合は身体とか体重の大きい動物ほど、何かしら重要な意味とか役割が与えられてそうなんだよな。
「全員、決まったッスか? じゃあ答え合わせいくッスよ?」
「オッケーよ」
「……(コクリ)」
「これは貴方が人生において窮地に立った時に、親、子供、パートナー、金、仕事、プライドの中から何を優先して捨てていくかわかる心理テストです。理由はそのまま捨てる理由になります……ってことらしいッスけど、最初にライオンと別れる人います?」
俺は象とライオンの二択で悩んでいたものの、意外にも手を挙げたのは阿久津のみ。百獣の王と呼ばれている割にはあまり強くないライオンを、他のメンバーは大事にしているらしい。
「ライオンはプライドッスね。ちなみにツッキー先輩、捨てる理由は何だったんスか?」
「唯一の肉食動物だったし、共食いを防ぐためかな」
「流石はツッキー。理由が現実的ね」
「でも水無ちゃんの理由だと、プライドを捨てる理由とは噛み合わないような……?」
「まあ、所詮は心理テストだからな」
「ライオンの群れのことをプライドと言うけれど、ひょっとしたらそれに掛けているのかもしれないね」
阿久津の雑学に対して、エアへぇーボタンを押す俺達。やはり獣医師志望だけあって動物全般に詳しいのか、はたまた単にネコ科の生き物だから知っていただけかもしれない。
「次は最初に象と別れる人ッス」
「俺だ」
「象は親ッスね」
「流石は根暗先輩。薄情者でぃす」
「いやだから心理テストだっての」
「大丈夫ッスよネック先輩。オレも象ッスから」
決して口には出さないが、捨てる理由が大して役に立ちそうにないし食費が掛かりそうだからって、我ながらこれ以上ないくらいに酷過ぎると思う。
幸いにも理由は尋ねられないまま、テツは次の選択肢である羊を選んだ人を確認。しかしながら手を挙げたのは、これまた早乙女の一人だけだった。
「羊はパートナーッスね」
「ホッシーのパートナーって言えば、間違いなくツッキーよね」
「そうなると、理由が気になるところかな」
「星華がミナちゃん先輩を捨てる筈がありません! 所詮は心理テストでぃす!」
「掌クルックルじゃねーか」
「次は馬ッス」
「はーい♪」
「あ、アタシも!」
「F―2コンビッスね。馬は仕事ッスよ」
「あー。ユメノン、バイト辞めるか悩んでる訳だし合ってるんじゃない?」
「そうなのかい? 初耳だね」
「うん。受験が終わるまでは暫く休もうかなーって思って」
その件に関して、俺は既に聞いていたりする。
今までは同じような毎日の繰り返しだったが、高三になってからは阿久津の予備校といい、止まっていた針が動き出したかの如く誰もが少しずつ変わっていく。
だからこそ、俺もまた変わらなければならない。
「牛は金ッスね。最初に猿と別れた人はいない感じッスか?」
「鉄クン。猿は何でしょうか?」
牛の時に冬雪と望ちゃんが手を挙げ、これで全員の診断が終了……と思いきや、一人離れた席に腰を下ろして俺達を眺めていた伊東先生が小さく手を挙げつつ質問した。
「猿は子供ッス」
「先生、子供はいないので問題ありませんねえ」
伊東先生の自虐ネタに思わず苦笑いしていると、突然ノックもなしに前方のドアが開く。
全員の視線が集まる中、ひょこっと顔を覗かせたのは他でもない俺の妹だった。
「やあ梅君。いらっしゃい」
「お~邪魔~虫~っ! …………あっ! お邪魔します。失礼します」
今頃になって伊東先生の存在に気付いたのか、丁寧に挨拶をし直す梅。我が家では勿論のこと学校でもノックなしとか、入試の面接の時は大丈夫だったのかコイツ。
「梅ちゃん!」
「望ちゃ~ん!」
同級生の友人を見つけるや否や、パチンと二人がハイタッチを交わす。実は望ちゃんが陶芸部へ入ったと知るなり、梅も陶芸部へ入部するかは悩んでいる様子だった。
しかしながら黒谷南中バスケ部部長の入部が三代続くことはなく、俺の妹は高校でもバスケを継続。今日も練習を頑張ってきたのか、髪の毛がグッショリと濡れている。
ちゃっかり望ちゃんの隣の椅子に座った妹は、長机の上のお菓子を見るなり目を輝かせた。
「梅も食べていいっ?」
「駄目だ。ほら、鍵持ってさっさと帰れ」
「む~。じゃあお兄ちゃんのそれで我慢する」
「人の話を聞け……ってうぉい! 勝手に取んな! お前が取りに来たのは鍵だろうが!」
「お兄ちゃんの物は梅の物! そして梅の物は~、お兄ちゃんの物~」
「いやー、助け合いの精神って素晴らしいッスね」
「どこが助け合いの精神だよっ? お前の目は今すぐ取り換えてこいっ!」
俺の手元の上にあったチョコを勝手に奪い、食べ終わったゴミを俺の元にリリースする不届き者に溜息を吐く。正直言って、コイツが陶芸部に入らなくて本当に良かった。
食べるものを食べて満足したら鍵を持ってさっさと出ていってほしいところだが、テツから心理テストの本を受け取った夢野が微笑みながら良からぬ提案をする。
「もし良かったら、梅ちゃんも一緒に心理テストやっていかない?」
「心理テストっ? やりたいやりたい!」
「盛り上がってるところ申し訳ありませんが、そろそろ時間も遅くなってきましたので、次で最後にしていただけると助かりますねえ」
「えー? アタシの番で、とっておきのやろうと思ったのにー」
「また合宿の時にでもやればいいじゃないか」
「そうッスね! いやー、合宿が今から楽しみッス!」
何だか梅の奴も参加する方向になっているが、まあ一回だけならと仕方なく認めよう。夢野と望ちゃんみたいな仲良し姉妹なら問題ないかもしれないが、コイツと一緒にいると何を言われるか分かったもんじゃないし、できる限り避けたいんだけどな。
夢野はパラパラと本を捲っていたが、やがて良い問題を見つけたのか音読し始めた。
「今日は恋人と遊園地でデートです。最新の絶叫マシンからメルヘンちっくな気分に浸れるものまで、色々なアトラクションがあるこの遊園地で、来たからには絶対に体験しておきたいと貴方が思うアトラクションは次のうちどれでしょうか?」
一番、世界最大の大きさを誇る大観覧車 。
二番、勇気と度胸のバンジージャンプ。
三番、気分はレーサーのレーシングカート。
四番、絶叫マシンの王様ジェットコースター。
気が付けば王様ゲームだけで結構いい時刻になっていた夕方の陶芸室。普段なら解散するところだが梅が来るため待たなければならず、他メンバーもそんな俺に付き合ってくれていた。
その待ち時間にやっているのが、テツの企画が破綻した場合を見越して火水木が用意していた心理テスト。ジャンケンで順番を決めた俺達は、本の中からテストを一つ選んでは全員に答えてもらいを繰り返し、交代で回している最中だった。
「ふむ。動物の部分をもう一度言ってもらえるかい?」
「ライオン、象、羊、馬、牛、猿の六種類ッスね」
この手の心理テストは自分でやる分には何も考えずに答えられるが、どうにも人から出されると何を示しているのかという本質を深読みしてしまいがちになる。
普通に食費の掛かり具合や役立ち度から考えれば、象、ライオン、猿、牛、羊、馬の順番で別れるのがベストな気がするが……大抵の場合は身体とか体重の大きい動物ほど、何かしら重要な意味とか役割が与えられてそうなんだよな。
「全員、決まったッスか? じゃあ答え合わせいくッスよ?」
「オッケーよ」
「……(コクリ)」
「これは貴方が人生において窮地に立った時に、親、子供、パートナー、金、仕事、プライドの中から何を優先して捨てていくかわかる心理テストです。理由はそのまま捨てる理由になります……ってことらしいッスけど、最初にライオンと別れる人います?」
俺は象とライオンの二択で悩んでいたものの、意外にも手を挙げたのは阿久津のみ。百獣の王と呼ばれている割にはあまり強くないライオンを、他のメンバーは大事にしているらしい。
「ライオンはプライドッスね。ちなみにツッキー先輩、捨てる理由は何だったんスか?」
「唯一の肉食動物だったし、共食いを防ぐためかな」
「流石はツッキー。理由が現実的ね」
「でも水無ちゃんの理由だと、プライドを捨てる理由とは噛み合わないような……?」
「まあ、所詮は心理テストだからな」
「ライオンの群れのことをプライドと言うけれど、ひょっとしたらそれに掛けているのかもしれないね」
阿久津の雑学に対して、エアへぇーボタンを押す俺達。やはり獣医師志望だけあって動物全般に詳しいのか、はたまた単にネコ科の生き物だから知っていただけかもしれない。
「次は最初に象と別れる人ッス」
「俺だ」
「象は親ッスね」
「流石は根暗先輩。薄情者でぃす」
「いやだから心理テストだっての」
「大丈夫ッスよネック先輩。オレも象ッスから」
決して口には出さないが、捨てる理由が大して役に立ちそうにないし食費が掛かりそうだからって、我ながらこれ以上ないくらいに酷過ぎると思う。
幸いにも理由は尋ねられないまま、テツは次の選択肢である羊を選んだ人を確認。しかしながら手を挙げたのは、これまた早乙女の一人だけだった。
「羊はパートナーッスね」
「ホッシーのパートナーって言えば、間違いなくツッキーよね」
「そうなると、理由が気になるところかな」
「星華がミナちゃん先輩を捨てる筈がありません! 所詮は心理テストでぃす!」
「掌クルックルじゃねーか」
「次は馬ッス」
「はーい♪」
「あ、アタシも!」
「F―2コンビッスね。馬は仕事ッスよ」
「あー。ユメノン、バイト辞めるか悩んでる訳だし合ってるんじゃない?」
「そうなのかい? 初耳だね」
「うん。受験が終わるまでは暫く休もうかなーって思って」
その件に関して、俺は既に聞いていたりする。
今までは同じような毎日の繰り返しだったが、高三になってからは阿久津の予備校といい、止まっていた針が動き出したかの如く誰もが少しずつ変わっていく。
だからこそ、俺もまた変わらなければならない。
「牛は金ッスね。最初に猿と別れた人はいない感じッスか?」
「鉄クン。猿は何でしょうか?」
牛の時に冬雪と望ちゃんが手を挙げ、これで全員の診断が終了……と思いきや、一人離れた席に腰を下ろして俺達を眺めていた伊東先生が小さく手を挙げつつ質問した。
「猿は子供ッス」
「先生、子供はいないので問題ありませんねえ」
伊東先生の自虐ネタに思わず苦笑いしていると、突然ノックもなしに前方のドアが開く。
全員の視線が集まる中、ひょこっと顔を覗かせたのは他でもない俺の妹だった。
「やあ梅君。いらっしゃい」
「お~邪魔~虫~っ! …………あっ! お邪魔します。失礼します」
今頃になって伊東先生の存在に気付いたのか、丁寧に挨拶をし直す梅。我が家では勿論のこと学校でもノックなしとか、入試の面接の時は大丈夫だったのかコイツ。
「梅ちゃん!」
「望ちゃ~ん!」
同級生の友人を見つけるや否や、パチンと二人がハイタッチを交わす。実は望ちゃんが陶芸部へ入ったと知るなり、梅も陶芸部へ入部するかは悩んでいる様子だった。
しかしながら黒谷南中バスケ部部長の入部が三代続くことはなく、俺の妹は高校でもバスケを継続。今日も練習を頑張ってきたのか、髪の毛がグッショリと濡れている。
ちゃっかり望ちゃんの隣の椅子に座った妹は、長机の上のお菓子を見るなり目を輝かせた。
「梅も食べていいっ?」
「駄目だ。ほら、鍵持ってさっさと帰れ」
「む~。じゃあお兄ちゃんのそれで我慢する」
「人の話を聞け……ってうぉい! 勝手に取んな! お前が取りに来たのは鍵だろうが!」
「お兄ちゃんの物は梅の物! そして梅の物は~、お兄ちゃんの物~」
「いやー、助け合いの精神って素晴らしいッスね」
「どこが助け合いの精神だよっ? お前の目は今すぐ取り換えてこいっ!」
俺の手元の上にあったチョコを勝手に奪い、食べ終わったゴミを俺の元にリリースする不届き者に溜息を吐く。正直言って、コイツが陶芸部に入らなくて本当に良かった。
食べるものを食べて満足したら鍵を持ってさっさと出ていってほしいところだが、テツから心理テストの本を受け取った夢野が微笑みながら良からぬ提案をする。
「もし良かったら、梅ちゃんも一緒に心理テストやっていかない?」
「心理テストっ? やりたいやりたい!」
「盛り上がってるところ申し訳ありませんが、そろそろ時間も遅くなってきましたので、次で最後にしていただけると助かりますねえ」
「えー? アタシの番で、とっておきのやろうと思ったのにー」
「また合宿の時にでもやればいいじゃないか」
「そうッスね! いやー、合宿が今から楽しみッス!」
何だか梅の奴も参加する方向になっているが、まあ一回だけならと仕方なく認めよう。夢野と望ちゃんみたいな仲良し姉妹なら問題ないかもしれないが、コイツと一緒にいると何を言われるか分かったもんじゃないし、できる限り避けたいんだけどな。
夢野はパラパラと本を捲っていたが、やがて良い問題を見つけたのか音読し始めた。
「今日は恋人と遊園地でデートです。最新の絶叫マシンからメルヘンちっくな気分に浸れるものまで、色々なアトラクションがあるこの遊園地で、来たからには絶対に体験しておきたいと貴方が思うアトラクションは次のうちどれでしょうか?」
一番、世界最大の大きさを誇る大観覧車 。
二番、勇気と度胸のバンジージャンプ。
三番、気分はレーサーのレーシングカート。
四番、絶叫マシンの王様ジェットコースター。