十六日目(金) 俺が不良品だった件
文字数 3,149文字
タワー・オブ・ドリームで垂直落下した後はフードコートに立ち寄りつつ、俺達はファストパスを取ったアトラクション、スコールレーザーを楽しんできた。
雷雲の中を飛行船で進み、手にした光線銃で次々と現れる標的を撃つ。的は100点・1000点・5000点・10000点の四種類だ。
「しかし隣で見ていても、相生君は見事だったね」
「ぐ、偶然だよ」
「実力がなければ、あんな点数は取れないさ」
葵は謙遜しているが、実際のところ阿久津の言う通りある程度の腕がないと難しい。夢野にいいところを見せるため、事前に攻略サイトでも調べてたりしてな。
「ミズキも凄かったけど、何かコツとかってあるの?」
「最初のうちは自分の光を見失わないことね。後は高得点を狙うこと!」
やり慣れているにも拘らず葵とは僅差だったが、俺達の中ではトップの火水木がドヤ顔で語る。夢野は阿久津や冬雪と同程度で、どんぐりの背比べな点数だ。
「……だって、ヨネ」
「言ったろ冬雪。あれは俺の光線銃が不良品だったんだ。十回くらい打った後で光が見えなくなったし、どう考えても弾切れならぬ光線切れしたとしか思えん」
「……でもゴールした後に試したら、ちゃんと光ってた」
「じゃあ光線がジャムってたんだな」
「そんな訳ないでしょうが! 大人しく自分が下手だって認めなさいよ」
…………認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを。
陶芸室の輪ゴム鉄砲の一件もあったせいで、の○太君ほどじゃないが射的に自信を持って意気揚々と乗り込んだのが運の尽き。俺はまさかのダントツビリだった。
「前にシューティングが苦手な後輩と来たことがあるけれど、それでも四桁には届いていたよ。流石に900は中々に見られない点数だね」
「100点だけを九回とか、逆にどんだけ器用なのよアンタは」
「狙ったからな」
「嘘を吐くにしても、もう少しマシな嘘はなかったのかい? キミのそういう中途半端に負けず嫌いで素直じゃないところは、本当に昔から変わらないね」
その言葉は、お前にもそのまま当てはまると思うんだけどな。
仮に不良品じゃないとしたら、きっと開始直後に阿久津が俺の銃をレーザーで撃って破壊したに違いない……あ、阿久チューを撃てば1兆点くらい入ったかな?
もっともタワドリが終わった時点で、カチューシャは夢野の頭に移動済み。昼過ぎになり上着を脱ぐほど暖かい中で、俺達は彼女のリクエスト先を目指していた。
「ん?」
これといって知り合いにも会わない中で、ふと人だかりを目にして足を止める。アトラクションもない道端の中心にいるのは、何てことのない清掃員の男だった。
「ユメノンストップ! ファンカストさん見に行かない?」
「ファンカストさんって?」
「正式名称はファンカストーディアルで、清掃員に扮したパフォーマーさんだよ。中には作業員の恰好をしている、ファンメンテナンスさんもいるけれどね」
見物人は円状に広がっていたため、回り込み最前列で眺める。ネズミースカイの清掃員と言えば、ゴミ拾いを「夢を拾っている」とか「星の欠片を集めている」なんて洒落た答えをすることで有名だが、それとはまた違うみたいだ。
阿久津の言う通り、目の前の清掃員は階段を掃除しているように見せているだけ。ただ面白いことに、その一挙手一投足の全てに効果音が付いている。
階段に洗剤を噴き掛ける真似をすれば謎の液体音がして、手すりを拭けば擦れる音。そして決めポーズを見せれば、シャキーンという音がした。
『ド♪』
掃除が終わった後で清掃員が足を乗せると、何故かピアノの音がする。
男は俺達に向けて「今の聞きましたか?」と言わんばかりに顔だけで訴えると、恐る恐る階段という名の鍵盤を順番に上がっていった。
『ド♪ レ♪ ミ♪ ニャ~♪』
四段目で猫の声がすると笑いが巻き起こる。
清掃員は慌てて洗剤を噴き掛けると、ファの音が出るようになったかを踏んで確認。その後で客の一人を呼び寄せてから、階段を上るように言った。
『ド♪ レ♪ バキッ!』
てっきりまた猫の鳴き声に戻っているのかと思いきや、男性客が階段を上っている途中でまさかの壊れた効果音。予想外の展開に思わず笑ってしまう。
「凄いな。どうやって音出してるんだ?」
「サウンドスーツのワイヤレススイッチを操作して、あのダストボックスから効果音を出していると聞いたことがあるね」
「……サウンドスーツ?」
「いまいちよくわからないんだが、スイッチを弄ってるようには見えないぞ?」
「聞いたことがあるだけで、本当かどうかは知らないよ。確かに不思議に感じるけれど、夢の国でそんなことを考えるのも野暮だからね」
「うーん……気になるな……」
夢野にも同じようなこと言われたが、どうも仕組みを探そうとしてしまう。もっともマジックを見せられている感覚で、タネも仕掛けも全然わからないけどな。
階段の調律を終えた清掃員は、マウスポインタみたいな指のついた指示棒をダストボックスから取り出す。しかし何かを指し示すために用意した訳ではなく、階段に指示棒の指先をあてがうとキュイーンというドリル音がした。
「ネジ抜けてる人いますか~? 締めてあげますよ~」
「「「お願いします!」」」
「はぁっ?」
阿久津と夢野と火水木の三人が声を揃えて、俺を指さしつつ答える。あまりにも息ぴったりだったため、打ち合わせでもしていたのかと疑うレベルだ。
ニコニコ笑顔で清掃員がやってくると、俺の頭に指示棒を添えてドリル音を鳴らす。他の客から笑いが起こる中、別の場所でもお願いしますと声が上がった。
「良かったね米倉君」
「これでアンタも少しはまともになるんじゃない?」
「ボクとしては、もう二、三本締めてもらった方が良いと思うけれどね」
「揃いも揃って人をポンコツ扱いしやがって……言ってやれ冬雪!」
「……でもヨネ、ネジチョコ食べた」
「あれが原因かよっ?」
てっきり味方かと思ったが、そんなことはなかったらしい。ちなみに葵はこの手の類も映画並みに好きなのか、声を掛けることすら躊躇うほど目を輝かせている。
『ピリリリリ……ピリリリリ……』
どこからともなくコール音が鳴ると、清掃員はダストボックスの中からアンテナ付きのバナナを取り出す。さっきの指示棒といい、まともな物が入ってないな。
携帯バナナで受け答えをした男は、ダストボックスをバイクのようにブイブイ言わせると見物人の拍手で見送られつつ去っていった。
「流石は夢の国って感じだったな。あんなのが何人もいるのか?」
「そんな訳ないじゃない。結構レアな存在なのよ」
「……手品みたいだった」
「手品と言えば、クリスマスの時に相生君も凄いのをやっていたね。見せる側の人間からすると、ああいうのを見てタネがわかったりするのかい?」
「う、うん。ほんの少しなら」
「じゃあ葵君、ここでファンカストさんとしてアルバイトできるね」
夢の国のキャストは美男美女が多いイメージだが、葵なら別に違和感もないだろう。仮に問題があるとすれば、男物と女物どちらの衣装を着るかくらいだ。
「あ、憧れはするけど、手品以外はできないし……」
「アタシは結構ありだと思うけど? オイオイがファンカストになったら、リアル男の娘としてまとめサイトに記事が載せられる未来まで見えてきたわ」
「えぇっ?」
きっとタイトルは『ネズミーに降臨したリアル男の娘が天使過ぎてヤバイ』とか、そんな感じだろう。もしそうなったら『だが男だ』ってコメントしておくか。
雷雲の中を飛行船で進み、手にした光線銃で次々と現れる標的を撃つ。的は100点・1000点・5000点・10000点の四種類だ。
「しかし隣で見ていても、相生君は見事だったね」
「ぐ、偶然だよ」
「実力がなければ、あんな点数は取れないさ」
葵は謙遜しているが、実際のところ阿久津の言う通りある程度の腕がないと難しい。夢野にいいところを見せるため、事前に攻略サイトでも調べてたりしてな。
「ミズキも凄かったけど、何かコツとかってあるの?」
「最初のうちは自分の光を見失わないことね。後は高得点を狙うこと!」
やり慣れているにも拘らず葵とは僅差だったが、俺達の中ではトップの火水木がドヤ顔で語る。夢野は阿久津や冬雪と同程度で、どんぐりの背比べな点数だ。
「……だって、ヨネ」
「言ったろ冬雪。あれは俺の光線銃が不良品だったんだ。十回くらい打った後で光が見えなくなったし、どう考えても弾切れならぬ光線切れしたとしか思えん」
「……でもゴールした後に試したら、ちゃんと光ってた」
「じゃあ光線がジャムってたんだな」
「そんな訳ないでしょうが! 大人しく自分が下手だって認めなさいよ」
…………認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを。
陶芸室の輪ゴム鉄砲の一件もあったせいで、の○太君ほどじゃないが射的に自信を持って意気揚々と乗り込んだのが運の尽き。俺はまさかのダントツビリだった。
「前にシューティングが苦手な後輩と来たことがあるけれど、それでも四桁には届いていたよ。流石に900は中々に見られない点数だね」
「100点だけを九回とか、逆にどんだけ器用なのよアンタは」
「狙ったからな」
「嘘を吐くにしても、もう少しマシな嘘はなかったのかい? キミのそういう中途半端に負けず嫌いで素直じゃないところは、本当に昔から変わらないね」
その言葉は、お前にもそのまま当てはまると思うんだけどな。
仮に不良品じゃないとしたら、きっと開始直後に阿久津が俺の銃をレーザーで撃って破壊したに違いない……あ、阿久チューを撃てば1兆点くらい入ったかな?
もっともタワドリが終わった時点で、カチューシャは夢野の頭に移動済み。昼過ぎになり上着を脱ぐほど暖かい中で、俺達は彼女のリクエスト先を目指していた。
「ん?」
これといって知り合いにも会わない中で、ふと人だかりを目にして足を止める。アトラクションもない道端の中心にいるのは、何てことのない清掃員の男だった。
「ユメノンストップ! ファンカストさん見に行かない?」
「ファンカストさんって?」
「正式名称はファンカストーディアルで、清掃員に扮したパフォーマーさんだよ。中には作業員の恰好をしている、ファンメンテナンスさんもいるけれどね」
見物人は円状に広がっていたため、回り込み最前列で眺める。ネズミースカイの清掃員と言えば、ゴミ拾いを「夢を拾っている」とか「星の欠片を集めている」なんて洒落た答えをすることで有名だが、それとはまた違うみたいだ。
阿久津の言う通り、目の前の清掃員は階段を掃除しているように見せているだけ。ただ面白いことに、その一挙手一投足の全てに効果音が付いている。
階段に洗剤を噴き掛ける真似をすれば謎の液体音がして、手すりを拭けば擦れる音。そして決めポーズを見せれば、シャキーンという音がした。
『ド♪』
掃除が終わった後で清掃員が足を乗せると、何故かピアノの音がする。
男は俺達に向けて「今の聞きましたか?」と言わんばかりに顔だけで訴えると、恐る恐る階段という名の鍵盤を順番に上がっていった。
『ド♪ レ♪ ミ♪ ニャ~♪』
四段目で猫の声がすると笑いが巻き起こる。
清掃員は慌てて洗剤を噴き掛けると、ファの音が出るようになったかを踏んで確認。その後で客の一人を呼び寄せてから、階段を上るように言った。
『ド♪ レ♪ バキッ!』
てっきりまた猫の鳴き声に戻っているのかと思いきや、男性客が階段を上っている途中でまさかの壊れた効果音。予想外の展開に思わず笑ってしまう。
「凄いな。どうやって音出してるんだ?」
「サウンドスーツのワイヤレススイッチを操作して、あのダストボックスから効果音を出していると聞いたことがあるね」
「……サウンドスーツ?」
「いまいちよくわからないんだが、スイッチを弄ってるようには見えないぞ?」
「聞いたことがあるだけで、本当かどうかは知らないよ。確かに不思議に感じるけれど、夢の国でそんなことを考えるのも野暮だからね」
「うーん……気になるな……」
夢野にも同じようなこと言われたが、どうも仕組みを探そうとしてしまう。もっともマジックを見せられている感覚で、タネも仕掛けも全然わからないけどな。
階段の調律を終えた清掃員は、マウスポインタみたいな指のついた指示棒をダストボックスから取り出す。しかし何かを指し示すために用意した訳ではなく、階段に指示棒の指先をあてがうとキュイーンというドリル音がした。
「ネジ抜けてる人いますか~? 締めてあげますよ~」
「「「お願いします!」」」
「はぁっ?」
阿久津と夢野と火水木の三人が声を揃えて、俺を指さしつつ答える。あまりにも息ぴったりだったため、打ち合わせでもしていたのかと疑うレベルだ。
ニコニコ笑顔で清掃員がやってくると、俺の頭に指示棒を添えてドリル音を鳴らす。他の客から笑いが起こる中、別の場所でもお願いしますと声が上がった。
「良かったね米倉君」
「これでアンタも少しはまともになるんじゃない?」
「ボクとしては、もう二、三本締めてもらった方が良いと思うけれどね」
「揃いも揃って人をポンコツ扱いしやがって……言ってやれ冬雪!」
「……でもヨネ、ネジチョコ食べた」
「あれが原因かよっ?」
てっきり味方かと思ったが、そんなことはなかったらしい。ちなみに葵はこの手の類も映画並みに好きなのか、声を掛けることすら躊躇うほど目を輝かせている。
『ピリリリリ……ピリリリリ……』
どこからともなくコール音が鳴ると、清掃員はダストボックスの中からアンテナ付きのバナナを取り出す。さっきの指示棒といい、まともな物が入ってないな。
携帯バナナで受け答えをした男は、ダストボックスをバイクのようにブイブイ言わせると見物人の拍手で見送られつつ去っていった。
「流石は夢の国って感じだったな。あんなのが何人もいるのか?」
「そんな訳ないじゃない。結構レアな存在なのよ」
「……手品みたいだった」
「手品と言えば、クリスマスの時に相生君も凄いのをやっていたね。見せる側の人間からすると、ああいうのを見てタネがわかったりするのかい?」
「う、うん。ほんの少しなら」
「じゃあ葵君、ここでファンカストさんとしてアルバイトできるね」
夢の国のキャストは美男美女が多いイメージだが、葵なら別に違和感もないだろう。仮に問題があるとすれば、男物と女物どちらの衣装を着るかくらいだ。
「あ、憧れはするけど、手品以外はできないし……」
「アタシは結構ありだと思うけど? オイオイがファンカストになったら、リアル男の娘としてまとめサイトに記事が載せられる未来まで見えてきたわ」
「えぇっ?」
きっとタイトルは『ネズミーに降臨したリアル男の娘が天使過ぎてヤバイ』とか、そんな感じだろう。もしそうなったら『だが男だ』ってコメントしておくか。