五日目(金) 帰ってきた梅桃コントだった件

エピソード文字数 1,875文字

「「はよざ~っす!」」

(…………ん?)

 いつも通り、アラーム代わりの騒がしい声に目を覚ます。
 しかし気のせいか、梅の声が二重になって聞こえた気がした。まあ寝惚けていただけだろうと、ごろりと寝返りを打って二度寝の体勢に入る。

「梅と!」
「桃の!」
「目覚まし梅桃コント~」
「…………」

 そういえばそうだった。
 無事に免許を取得した姉貴、米倉桃(よねくらもも)は最近、週末になる度に帰ってくる。昨日も大学が終わるなり、金・土・日と三連休らしく我が家へ訪問してきた。
 その理由は友達との旅行に車を使う許可を得るため。放任主義な米倉家でも流石に運転ともなれば干渉するようで、免許取り立ての娘によそ様を乗せるのはどうかという話だ。
 結論としては旅行までの間、運転技能をテストしてもらうことに。そのため休日の度に姉貴は母さんを乗せて買い物に行ったり、父さんを乗せて職場へ送迎したりしていた。

「いや~桃さん! 今日は清々しい朝ですな~」
「その通りですな~梅さん。このクラリ君のストラップも、満面の笑顔ですな~」
「はよざっす、クラリ君!」
「窓の外では小鳥さんも楽しそうですな~」
「はよざっす、小鳥さん!」
「この窓も、心なしか輝いているように見えますな~」
「はよざっす、窓!」
「英語で言うと?」
「ハローッ! ウィンドウ!」
「ハローウィンドウ」
「「ハロウィン! ハイッ!」」

 多分謎ポーズを決めているんだろうが、絶対に目を開けはしない。はよざっすって「やあ」的な意味合いで使える便利用語なのかよ……という突っ込みもしないでおく。

「そういえば今日はハロウィンでしたな~桃さん」
「ハロウィンと言えばあれですな~梅さん。苦い瓜と書いて~」
「そりゃゴーヤ!」
「冬の瓜と書いて~」
「そりゃトウガン!」
「糸の瓜と書いて~」
「そりゃ…………(何だっけ?)」
「(ヘチマ)」
「そりゃヘチマ!」

 おい、ネタ飛んでるじゃねーか。
 小声の会話まで聞こえている天然っぷり。まさに木の瓜と書いて木瓜(ボケ)ってか?

「西に瓜と書いて~」
「そりゃスイカ!」
「中々当たりませんな~」
「まあまあ。ここらで一息、お茶は如何ですかな桃さん」
「いただきましょう梅さん。これは美味しい! 何茶ですかな?」
「若返り効果のある、ごぼう茶ですな~」
「ごぼう茶」
「ごぼ茶」
「「カボチャ! ハイッ!」」

 いや、そこまで言ったなら普通に南の瓜と書いてカボチャの流れでいいじゃん。
 人が寝ているのに止まらないコント。まあ寝た振りだってわかってるんだろうけどさ。

(起きないよ桃姉?)
(今のは「そこは普通にカボチャでいいだろ」って突っ込んでくると思ったんだけどね)
(どうする?)
(勿論あれよ、あれ)
(オッケー)
「それではお待ちかね、大好評の櫻&水無月ちゃんシリーズより――――」
「誰に好評なんだよっ?」
「あっ! 起きたっ!」

 流石にあの下手な物真似をされては黙っていられない。目を開けて身体を起こすと、ハロウィンと言っても当然ながら何のコスプレもしていない二人がいた。
 そして姉貴の寝癖が酷い。俺を起こしに来るより先に、そのボンバってる髪の毛を何とかした方が良かったんじゃないかってレベルである。

「お兄ちゃん、トリックアンドトリート! お菓子も悪戯もしちゃうよ?」
「多分それ、直訳するとお菓子を渡したら悪戯するってなるぞ? つまり渡さなければどうということはない」
「え~っ?」
「うんうん正解。じゃあ櫻、トリックイェットトリート!」
「…………わからん。答えは?」
「お菓子はいいから悪戯させなさい♪」
「却下」

 二人がかりで起こしに来られては二度寝する気になれない。それに今日の俺の送迎を担当してくれる姉貴が起きているなら、少しくらい早起きするとしよう。

「…………あ、喜ぶといいぞ梅。トリートなら一番下の引き出しに入れたままだ」
「本当っ?」
 
『ガラッ』 ← 一ヶ月半前に買ったリンス(一話参照)

「トリックオアトリートメント……なんつってな」
「お兄ちゃん、デッドオアアライブ!」
「ホワィッ? 最早ハロウィンの原形がオアしかねえっ!」
「オゥア、オゥア、オゥア……」
「そこっ! 格ゲーみたいな死に方すんなっ!」

 ちなみにこの後、姉貴からリンスとトリートメントの違いを説明された。何でもリンスの上位互換がコンディショナー、その上位互換がトリートメントらしい。知らんがな。
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登場人物紹介

米倉櫻《よねくらさくら》


本編主人公。一人暮らしなんてことは全くなく、家族と過ごす高校一年生。

成績も運動能力も至って普通の小心者。中学時代のあだ名は根暗。

幼馴染へ片想い中だった時に謎のコンビニ店員と出会い、少しずつ生活が変わっていく。


「お兄ちゃんは慣れない相手にちょっぴりシャイなだけで、そんなあだ名を付けられた過去は忘れました。そしてお前は今、全国約5000世帯の米倉さんを敵に回しました」

夢野蕾《ゆめのつぼみ》


コンビニで出会った際、120円の値札を付けていた謎の少女。

接客の笑顔が眩しく、透き通るような声が特徴的。


「 ――――ばいばい、米倉君――――」

阿久津水無月《あくつみなづき》


櫻の幼馴染。トレードマークは定価30円の棒付き飴。

成績優秀の文武両道で、遠慮なく物言う性格。アルカスという猫を飼っている。


「勘違いしないで欲しいけれど、近所の幼馴染であって彼氏でも何でもない。彼はボクにとって腐れ縁というか、奴隷というか、ペットというか、遊び道具みたいなものでね」

冬雪音穏《ふゆきねおん》


陶芸部部長。常に眠そうな目をしている無口系少女。

とにかく陶芸が好き。暑さに弱く、色々とガードが緩い。


「……最後にこれ、シッピキを使う」

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