二日目(火) 店員さんは色々と大変だった件

エピソード文字数 4,234文字

「やっと見つけた」
「あら。どうしたの櫻?」
「少し目を離したら二人していなくなってたんだろ……ん? それ梅の荷物だよな?」
「ちょっと預かってるよう頼まれちゃったのよ」
「それで、梅はどこに行ったんだ? トイレか?」
「…………キミのような勘のいいガキは嫌いだよ」

 どこぞの国家錬金術師みたいなことを言われた。お花摘みと答えるべきだったかな。
 しかし広い店内ではぐれた際に合流するのって、地味に面倒だと思う。今は携帯という便利品があるものの、俺に限っては電話なんて金の掛かる行為をする筈もない。

「姉貴は何見てたんだ?」
「ん~? これいいな~って思ってね~」

 本日何度目になるかわからない目移りをしている姉貴が眺めていたのは、スノードームと呼ばれるいかにもクリスマスなインテリアだった。 
 ドーム型の透明な容器の中に入っているのは、ミニチュアのサンタ人形と白いパウダー。動かすことで雪の降っている風景を作り上げる洒落た一品だ。

「へぇー。綺麗だな」
「でしょ~? しかもこれ、クリスマスソングのオルゴールが鳴るのよ! どうですお兄さん? 気になるあの子にうってつけのプレゼントに一つ!」
「いつからこの店の回し者に…………あ!」
「どうかしたの?」
「陶芸部でプレゼント交換するの忘れてた。参ったな……何にすっか」
「じゃあこれにしたら? 桃姉さんのお墨付きよ~♪」

 確かに姉貴は俺と違ってセンスがある。このスノードームもプレゼントとしては中々に良いと思うが、問題はその価格が予算を大幅にオーバーしていることだ。

「プレゼントは1000円以下って話になってるから、買うとしたらこの辺りかな」
「う~ん……」
「こっちじゃ駄目なのか?」

 予算以内のスノードームもいくつかあるが、我が姉上は俺の指さした商品に対して微妙な表情を浮かべる。大して変わらないように見えるが、プロにしかわからない違いってやつか。

「オルゴールが付いてないのよね~」
「それだけかよ! そこ、そんなに重要か?」
「重要も重要、最重要よ~。オルゴールが付いてたら、ふとした時に鳴らしたりするじゃない? 音楽は旧石器時代から続いてる、人の生活に欠かせない文化なんだから」

 姉貴の主張はわからなくもない。生活に欠かせないというのは少し大袈裟に聞こえるが、少なくとも音楽には感情を左右させる効果があると思う。

「む~、1000円以下か~」

 一つ一つ商品を見て回るが、安いのはどれも純粋なスノードームのみ。オルゴールが付いている物となると、やはり少しばかり値が張ってしまうようだ。
 悩みに悩んだ末、セレクター桃は何か閃いたようにポンと手を打つ。

「櫻、これにしなさい!」

 差し出されたのはオルゴール付きの中では一番小さなスノードーム。中に入っているのもサンタにツリーとシンプルだが、問題の表示価格はクリスマス特価と書かれていても2498円(税抜き)だ。

「いや、だから…………」
「ふっふっふ。桃姉さんに任せなっさ~い」

 姉貴はドンと大きな胸を張った後で、近くにいた若い男性店員の元へ向かう。
 そういえばこういう展開、前にアニメで見たことがあるぞ。まさか自信満々だったのはこの店員が知り合いとか、顔が利いて割引できるとかそういうことなのかっ?

「あのすいませ~ん。これネットでは1000円だったんですけど、安くなりません?」
「…………………………」

 そんなことは全然なかった。しかもどこで学んだか知らんが、やり口が雑過ぎるだろ。
 店員のお兄さんも流石に1000円は嘘と見抜いているのか、困った顔を浮かべている。何ていうか、うちの愚姉がご迷惑をお掛けして本当にすいません。

「で、どうだった?」
「値引きできても2000円までだって」
「そりゃそうだ」

 寧ろよく値下げに応じてくれたなとさえ思う。マジでごめんなさいお兄さん。
 頭に指を当てて考える姉貴だが、やはりオルゴール付きはどう考えても難しい。

「スノードームじゃない、ただのオルゴールにするってのはどうだ?」
「それだとクリスマスプレゼントじゃないし、スノードームってところがミソなのよね~」
「成程、やっぱりわからん」
「ピコーン! 良いこと思い付いちゃった!」

 再び手をポンと叩いた後で、ハンドバッグからお洒落な長財布を取り出す姉貴。
 一体何を閃いたのかと思いきや、俺の手首を掴むなり掌の上へ千円札を乗せてきた。

「テレレレレ~。スペシャルクーポン券~」
「ちょっと何言ってるか分からないです」
「要するに、櫻の払う金額が予算以内なら良いんでしょ?」
「いや駄目だろ」

 つまりモモえもんは、クーポンという名目で半額出すと言いたいらしい。いくら何でもそこまでしてもらうのはどうかと思うし、それなら他のプレゼントにする方が良いだろう。

「スノードームにこだわる理由はないんだし、姉貴に払って貰うくらいなら適当にノートとかペンでも選んで買うから別にいいっての」
「お兄さ~ん、これくださ~い」
「無視かよっ? ちょっ、おいっ!」

 俺の制止も無視して話を進める姉貴。流石に値引きしてもらった上にここまで買う雰囲気を出しては断るのも申し訳なく、結局オルゴール付きのスノードームを購入した。

「何か悪いな。お年玉で返すから」
「倍返しだっ!」
「だから使い方が違うっての! しかも勝手に貸しておきながらそれ言うのかよっ?」
「冗談よ冗談。別に返さなくていいってば。困った時は桃姉さんに頼りなさい」
「あ~っ! 二人とも、こんな所にいたっ! はれ? お兄ちゃん、何か買ったの?」
「ちょっと部活で必要な物をな。さてと……ん?」

 現在時刻を確認しようとポケットから携帯を取り出すが、画面が真っ暗になっている。電源ボタンを長押ししても起動せず、一度電池パックを入れ直してみたが駄目だった。

「…………え? マジで?」
「もしかしてタターン、壊れちゃったの?」
「完全に名前扱いだなそれ。ちょっと修理できるか、ショップ行ってくるわ」
「いっそ新しいのにしたら? 足りるかわからないけど、これ貸してあげるから」

 俺の財布事情を察してか、姉貴がさらりと紙幣を差し出す。しかもそれは先程までのお札と比べて、0が一つ多い一万円札だった。

「ちゃんとお年玉で返しなさいよ~?」
「万札って……良いんですかお姉様?」
「携帯以外にも年末は色々と使うでしょ? ただし今度、桜桃コントに付き合うこと」
「やらせていただきます」
「うむ、よろしい」
「じゃあ貧乏なお兄ちゃんに、梅も寄付してあげましょう」
「いや待て梅よ。いくら貧困な兄とはいえ、流石に妹から金は借りんぞ?」
「これで好きな物を飲みなさい」

 姉の真似をした妹が差し出してきたのは、先程飲んでいたミルクコーヒーのストロー。ふむふむ成程、確かにこれなら好きな物が何だって飲めるな。

「おお、サンキュー………………モスキートアタック!」
「ふぎゃあああああっ!」

 開封したストローをブスリと首筋に突き刺す。妹の絶叫により人目が集まったのを見て、耳に息を吹きかける程度にすれば良かったと後悔した。

「首筋を蚊に刺された時って、キスマークと誤解されて困るのよね~」
「うう……お兄ちゃんにキスマーク付けられた……」
「公衆の面前で誤解しか招かないような発言をするなっての! じゃあ行ってくるから、二人は適当にショッピングの続きでもしててくれ」
「了解! では梅中尉、行くぞ~っ!」
「イエッサー」
「だからサーじゃなくてマムだっての」
「イエッマム!」

 合ってるけど間違ってる梅は姉貴に任せ、俺は一旦二人と別れた。
 手にしたストローを指でくるくる回しながら、建物内の地図を確認して携帯ショップへ向かう。道中でごみ箱は無いかと探してみるが、これが中々見つからない。

「駄目か」

 ストローを咥えると空いた両手で携帯を色々と弄ってみるが、復活する様子はなかった。
 ごみ箱も見つからないまま携帯ショップへ辿り着く直前で、ふと鏡に映った自分の姿が目に入る。こうしていると、まるで棒付き飴を咥えている阿久津みたいだ。
 仕方なくストローをポケットに入れてから入店。都合良く店内が空いていたので、これといって待つこともなくカウンターへ案内された。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっと、携帯が動かなくなっちゃって」
「それでは携帯電話の方を拝見させていただいても宜しいでしょうか?」
「これなんですけど、今朝になって画面がこう……一周するようになったんです。あと開いたり閉じたりした時に音が鳴るように設定してたんですけど、それも駄目みたいで」
「そうですか。誠に恐縮ですが、何かお心当たりはございますか?」
「あ、はい。調子が悪くなったのは、二ヶ月くらい前に携帯を釉薬に落としてからなんでそれが原因かなって」
「ユ、ユウヤク……と申しますと……?」
「あっ! えっとですね…………何て言うか、こう……ドロっとしてる液体で…………えっと…………この隙間に付いてる白い粉みたいなやつなんですけど…………」

 悲報。櫻氏、店員に釉薬の説明ができない。
 普通に考えれば絶対知らない代物だろうし、下手したら陶芸という単語すら首を傾げる人もいるだろう。ここに来て思わぬ緊急事態が発生してしまった。
 目の前にいる女性店員も、困っているのが目に見えてわかる。下手したら誤解を招きかねない表現だが、実際のところ事実だけに仕方ない。

「と……とにかく変な液体に浸かっちゃって、水で洗い流したんです!」
「そ、そうですか。少々お待ち下さいね」

 携帯を手にしたまま、店員さんは他の人へ相談しにいく。いや本当にすいません。
 どうやら少しばかり時間が掛かりそうな様子。元々が購入した当時売られていた中でも相当古い型だった上、釉薬なんて意味不明な単語を出されては扱いに困るのも仕方ない。

「………………」

 待たせて貰っている間、ここ数ヶ月に渡り遠足というキーワードから俺が導き出した思い出を改めて振り返ってみるとしよう。
 ヤンチャで優しさだけが取り柄だった、馬鹿な少年の昔話を…………。
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登場人物紹介

米倉櫻《よねくらさくら》


本編主人公。一人暮らしなんてことは全くなく、家族と過ごす高校一年生。

成績も運動能力も至って普通の小心者。中学時代のあだ名は根暗。

幼馴染へ片想い中だった時に謎のコンビニ店員と出会い、少しずつ生活が変わっていく。


「お兄ちゃんは慣れない相手にちょっぴりシャイなだけで、そんなあだ名を付けられた過去は忘れました。そしてお前は今、全国約5000世帯の米倉さんを敵に回しました」

夢野蕾《ゆめのつぼみ》


コンビニで出会った際、120円の値札を付けていた謎の少女。

接客の笑顔が眩しく、透き通るような声が特徴的。


「 ――――ばいばい、米倉君――――」

阿久津水無月《あくつみなづき》


櫻の幼馴染。トレードマークは定価30円の棒付き飴。

成績優秀の文武両道で、遠慮なく物言う性格。アルカスという猫を飼っている。


「勘違いしないで欲しいけれど、近所の幼馴染であって彼氏でも何でもない。彼はボクにとって腐れ縁というか、奴隷というか、ペットというか、遊び道具みたいなものでね」

冬雪音穏《ふゆきねおん》


陶芸部部長。常に眠そうな目をしている無口系少女。

とにかく陶芸が好き。暑さに弱く、色々とガードが緩い。


「……最後にこれ、シッピキを使う」

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