十六日目(金) 中身は腐ってるけど良い嫁になりそうだった件

エピソード文字数 2,561文字

 空に浮かぶ雲の海を、ボートに乗って進みながらカシャッと一枚。月のウサギと会話する参加型ショーを楽しんだ後、入口にてウサ耳ポーズでパシャリと一枚。
 俺や葵を経由したカチューシャが冬雪というベストポジションに収まると、カシャシャシャシャシャと連写。勿論、撮影者が誰かは言うまでもない。

「もし宇宙行ったら、ネックは何したい?」
「考えるのを止めたい」
「どこのカ○ズ様よっ?」

 そして今乗っているアトラクションは宇宙二万光年。俺はカメラガール火水木と一緒に一人用……じゃなくて二人用のポッドで銀河の中を漂っていた。
 他のアトラクションとは異なり完全な密室であり、前のポッドには葵と冬雪。後ろのポッドには阿久津と夢野が乗っているものの、中は見えず声も聞こえない。

「このアトラクションってカップル御用達なのよね」
「あー、密室だからか?」
「それだけじゃなくて、二人で窓を覗くから距離も近くなるじゃない? 途中で揺れたりもするから、ムードを盛り上げるにはピッタリって訳」
「ほー」

 火水木のネズミースカイ雑学に感心こそするものの、実際に使う機会はないと思う。言った傍からポッドが揺れると、目の前にいる少女の胸も揺れた。

「でも狙った相手と一緒になれないなんて、アンタもオイオイも運がないわね」
「何の話だ?」
「誤魔化したところで、オイオイがユメノンを狙ってるのバレバレよ?」
「………………」
「ああ、安心して頂戴。映画のチケットを渡された時も話したけど、本人は未だに気付いてないみたいだから。ユメノンって自分のことだと鈍いのよね」

 火水木の鈍いという指摘は、前に俺も言われたことがある。
 確かあれは『彼女の名は』を見終わった後の喫茶店だったか。あの時点で葵の好意に気付いてたとか、直感なのか洞察力なのか知らんがコイツ凄すぎだろ。

「それでネックは、ぶっちゃけどっちが好きなの?」
「一部と二部なら、俺は二部の方が好きだな」
「誰がジョジ○の話しろって言ったのよっ? ユメノンとツッキーの二人よ」
「じゃあツメノンで」
「その名前の付け方だと、もう一つの融合体がユッキーになるわね」

 言われてみればその通りで一瞬凄いと思ってしまったが、落ち着いて考えるとツッキーとユッキーで一文字違いなんだし全然そんなことはなかった。
 しかし何でこんな宇宙の果てに来てまで、修学旅行の男子部屋みたいな話をしなきゃならないのか……逆に考えるんだ。修学旅行の行き先が宇宙でもいいさ……と。

「そういう話は人に聞く前に、まず自分からだろ。お前こそどうなんだ?」
「アタシは三部が好きね」
「ジ○ジョの話じゃねーよ!」
「元はと言えばアンタが先に言ったんじゃない。そもそもアタシにそんなこと聞いたところで、答えなんてわかりきってるでしょうが」

 やっぱコイツも兄貴と同じで、二次元を愛する者って訳か。
 ただアキトは妙に恋愛観に詳しかったし、火水木もリアルを創作世界に近づけようとしている。二人とも完全に三次元を諦めたって感じじゃないんだよな。

「それで、結局どうなのよ? まさかユッキーに乗り換えたとか?」
「その言い方だと冬雪が快速みたいだな」
「あ、何ならアタシでもいいけど?」
「じゃあお前で」
「ちょっとは真面目に答えなさいよっ!」

 いいと言われたから指名したのに、何故か逆切れされた。そして声がでかい。

「でも中身は腐ってるけど、火水木って良い嫁になりそうだよな。バレンタインの気配りとか見てると、旦那とか大事にしそうだしさ。中身は腐ってるけど」
「二回も言わない。喧嘩売ってるんだか褒めるんだか、どっちかにしなさいよね」
「いや、割と真面目に答えたつもりだぞ?」
「…………何でアタシにそういうこと真顔で言うんだか……相手が違うでしょ? ユメノンとかツッキーに言ってあげなさいよ」

 褒められ慣れていないのか、火水木は若干照れつつ目を逸らしながら応える。普段見ない表情に少しドキッとしたが、これがギャップ萌えってやつか。
 しかし羊毛フェルトやアイロンビーズといった家庭的な趣味を持つ夢野はともかく、阿久津はどう考えても旦那を尻に敷くタイプだと思うんだよな。

「あーあ。アンタ達がもう少しわかりやすかったら、アタシも迷わず動けるんだけど」
「ん? どういうことだよ?」
「やっぱ鈍いわね。勝手に考えなさい」

 宇宙の旅も終わりが近づき、火水木が話を切り上げる。そんなに長い時間いた覚えはないが、ポッドを降りて外に出ると気付けば空はすっかり暗くなっていた。

「……お腹空いた」
「私もちょっとお手洗いに行きたいな」
「ぼ、僕も」
「それなら少し休憩にしようか」
「そうね。じゃあ合流は……トゥーンワールドでーす」

 マインドスキャンしてきそうな口調で火水木が答える。至る所にベンチは用意されているが、この辺りは人が多いし集合場所にすると大変そうだからな。
 現に先程も「どこにいる? え? ここじゃないの?」と彷徨うおじさんを見かけた。口にしているアトラクションがランドの乗り物で、根本的に場所を間違えていないか聞いてる方が不安だったけど……グッドラックおじさん。

「アタシも何か買ってこよっと。ユッキー、何食べに行くの?」
「……チュロス食べたい」
「いいわね。行くわよ!」
「……おー」

 基本的に小腹が空いた際にはスモークチキンやワッフルなどを食べ歩きしていたが、どうやら冬雪はチュロスが一番のお気に入りらしい。
 夢野と葵も別方向に歩き始め、二人ずつ散り散りに分かれる。その結果この場に残ったのは俺と阿久津だけだった。

「櫻は大丈夫なのかい?」
「トイレはさっき行ったし、腹は……まあ大丈夫だ」
「短縮授業の時の昼食抜きといい、キミの食生活は見ていて不安になるね」

 フードコートでの昼飯は付き添う形で食べたが、それ以外は節制していたのを見抜かれていたみたいだ。思い出はプライスレスでも、やっぱ高い物は高いんだよな。
 いっそ心配するなら、手作り弁当の一つでも作ってほしい。まあバレンタインチョコをくれなかった阿久津に言ったところで、軽く一蹴されるだけだろうけどさ。
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登場人物紹介

米倉櫻《よねくらさくら》


本編主人公。一人暮らしなんてことは全くなく、家族と過ごす高校一年生。

成績も運動能力も至って普通の小心者。中学時代のあだ名は根暗。

幼馴染へ片想い中だった時に謎のコンビニ店員と出会い、少しずつ生活が変わっていく。


「お兄ちゃんは慣れない相手にちょっぴりシャイなだけで、そんなあだ名を付けられた過去は忘れました。そしてお前は今、全国約5000世帯の米倉さんを敵に回しました」

夢野蕾《ゆめのつぼみ》


コンビニで出会った際、120円の値札を付けていた謎の少女。

接客の笑顔が眩しく、透き通るような声が特徴的。


「 ――――ばいばい、米倉君――――」

阿久津水無月《あくつみなづき》


櫻の幼馴染。トレードマークは定価30円の棒付き飴。

成績優秀の文武両道で、遠慮なく物言う性格。アルカスという猫を飼っている。


「勘違いしないで欲しいけれど、近所の幼馴染であって彼氏でも何でもない。彼はボクにとって腐れ縁というか、奴隷というか、ペットというか、遊び道具みたいなものでね」

冬雪音穏《ふゆきねおん》


陶芸部部長。常に眠そうな目をしている無口系少女。

とにかく陶芸が好き。暑さに弱く、色々とガードが緩い。


「……最後にこれ、シッピキを使う」

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