二十一日目(日) 相性診断が28%で100点だった件

文字数 5,768文字

「そういえば、この前の歓迎会について望ちゃん何か言ってなかったか?」
「物凄く楽しんでたけど、どうして?」
「いや、心理テストはともかく王様ゲームがカオスだったからさ。一年生は一人だし、あの空気についていけなくて陶芸部が嫌になったりしないか不安で不安で」
「そんなことないってば。あの子、落ち着いてるように見えて賑やかなの大好きだから。ああいうパーティーとかお祭りとか、それこそ大歓迎だと思うよ?」
「そうか。それなら良かった」
「あ! 心理テストで思い出した! 米倉君にやってほしいことがあるんだけどいい?」
「ん? 何だ?」
「ちょっと待っててね」

 ティータイムを終えた俺達は再び一時間の勉強タイム……と言いたいところだが、流石に集中力が切れてきており三十分ほど経ったところで雑談が増え始めてきた。
 気付けば絵しりとりで遊んだりしながらダラダラ勉強していたところで、夢野がふと思い出したように口を開くとスマホを取り出す。
 それを見た俺もペンを置くと一休み。スマホでやってほしいことと言われて真っ先に思いつくのは、よくクラスメイトから「俺の記録を抜いてみろ」とやらされるゲームの挑戦状だが、まさか夢野もハマっているゲームがあったりするんだろうか。

「はい、これ。よく当たるんだって!」

 差し出されたスマホを受け取って画面を確認すると、そこには『二人でやる相性診断』の文字。一体何かと思えば、いかにも女子が好きそうな占いだった。
 相性診断なんて、中学の頃に電卓でやった時以来かもしれない。名前を数字に変換して2で割りまくるなり√ボタンを押しまくるなりして、最終的に少数第二位までとか下二桁とかが相性を示すパーセントになるとか、一体誰が広めたのかそんな変な占いが流行ってたんだよな。

「二人でやるって、ちょくちょく交代してやるのか?」
「ううん。まずは米倉君が一通り答えて、全部答え終わったら私が答える感じ」
「成程。了解だ」

 よく当たると言われても、当然ながら俺は相性診断も心理テスト同様にあまり信じてない。まあそんなことを言ったら興醒めだし、当然ながら黙っておいた。
 冒頭には注意書きで『見栄などを排除し、素直な心で、率直かつ直感的な回答を心掛けてください。悩み過ぎず「なんとなく」で回答してください』とのこと。名前に性別、生年月日を入力すると、早速質問が始まる。



『あなたに当てはまるもの、およそ同意できるもの、を全て選んでください』

・日本人がハロウィンに浮かれるのは、違和感がある。
・べつに楽しければ良いのではと思う。気持ちは分かる。
・なんでクリスマスにカップルで過ごすのかが、正直よく分からない。
・理由はともかく、それで良いと思う。深く考える必要はないと思う。



「…………」

 基本はこんな感じで、正反対の質問が交互に並んでいる様子。時にはどちらもあてはまらないためスル―したり、逆に両方当てはまる場合もあった。
 慣れない手つきでスマホを操作しながら淡々と答えていくと、今度は一風変わった問いかけをされる。



『彼氏彼女ができたと仮定して、あなたは相手に甘えたい人ですか? 放っておかれたい人ですか? ニュアンスが近いものを、無理にでも、一つ選んでください』

・ベタベタに甘えたい。安心してうずくまりたい。大事にされて、ケアされたい。
・基本的には好きなように自由に生きたい。放置されたくないが、見守っていてほしい感じ。
・甘えたいときもあるが、尊敬できる人と高め合って、ついていきたい感じ。素敵だとも思われたい。
・尊敬されたいしカッコよく強くありたい。甘えたくはない。ついてきてほしい、という感じ。
・甘えたいというより、守ってあげたい。親密で、安心感のある関係を築きたい。気持ちを分かってあげたい。
・基本的に好きなように生きたいが、いざというときは頼れる存在でありたい。親密というより、遠目で見守る感じでいたい。



「………………」

 これは一つだけを選ぶということなので、俺は『甘えたいときもあるが、尊敬できる人と高め合って、ついていきたい感じ。素敵だとも思われたい』を選択する。
 更にその後も、再び一つ選ぶタイプの質問が続いた。



『次のうち、あなたの好きなタイプを、あえて一つに絞って選んでください。無理にでも一つ選んでください』

・かわいらしくて心優しいが、弱くて、ほっとけない人。寂しがり。
・生意気だったり偉そうなところもあるが、なんだか、かわいさもある人。
・物腰柔らかで、明るく、すっきりしていて、ちゃんとしている人。
・しっかりしていて、前向きで、強い気持ちや強い意志を持った人。
・優しくて、思いやりや癒しがありつつ、安定感や安心感のある人。
・尊敬できて、偉大で、小さなことにこだわらず、あまり干渉してこない人。



「……………………」

 思わず手を止め、チラリと夢野の方を見る。
 俺が答え終わるのを待っていた少女は、目が合うなり首を傾げつつ尋ねてきた。

「終わった?」
「いや……もうちょいだ」

 いざ自分の好きなタイプを聞かれると、どれもこれも当てはまってしまいそうな気がして困ってしまう。ぶっちゃけ『かわいらしくて』と『かわいさもある人』とか同じだし、『ちゃんとしている人』と『しっかりしていて』も変わらないだろ。
 直感で答えるよう最初に言われていたものの、少し悩んだ後で『優しくて、思いやりや癒しがありつつ、安定感や安心感のある人』を選ぶ。やっぱり一緒にいて安心する人が一番大切…………なんだろうか?

『二人目の方に操作を渡します。二人目の方がすぐそばにいるなら、下のほうにある「次の質問」に進み、この携帯(またはPCの操作)を渡すだけでOKです。下の「つづきURL」をコピーして相手に送るのも良いでしょう』

 最後に趣味や興味があるものを聞かれ、ようやく俺の回答タイムが終了。次の質問を押した後で、楽しそうに出番を待っていた夢野にスマホを返却する。

「ん、終わったぞ」
「ありがと」

 今度はスマホを受け取った夢野が診断を開始。時折断片的に口に出てくるワードを聞いている限り、どうやら答えているのは同じ質問らしい。
 五分ちょっとが過ぎたところで夢野も回答を終え、いよいよ診断の結果発表。向かいに座っていた少女は立ち上がると、俺にも見えるように隣へ移動して腰を下ろした。

「じゃあ、いくよ?」
「おう」

 二人でピタッと寄り添いながら、小さい画面を覗きこむ。
 夢野の細い指によってページがスライドしていき『タップ/クリックで表示』と書かれている総合的な相性の項目を軽くタッチした。



『28%』



「…………」
「………………」
「……………………30%満点か?」

 予想以上に反応に困る数字が出てきたため思わずポツリと一言。そんな俺のボケが夢野にはウケたようで、一瞬静まりかけた部屋の空気が和みあるものへと戻る。
 ちなみに判定基準としては95%以上が『極めて良い』から始まり、5%刻みで『とても良い』『良い』『まぁまぁ良い』『普通』『微妙な感じ』とランクが下がっていく。そして60%~69%が『残念』で、50%~59%が『危険』となり、50%以下は『しんどい』とひとまとめ。そう考えると28%というのは、ある意味で中々の数字だ。

『細かな差異は当然にありますが、全体で眺めると「似た者同士」です。似すぎです。似た者同士は、付き合うのが楽ですし分かり合いやすいのですが、発展性や新鮮味が足りなかったりドキドキ感が薄れやすく、関係が緩み切ってしまう可能性があります。またスタート時に気持ちに火がつかない(良い友達として終わる)可能性も高いでしょう』

 でかでかと『似すぎ』と書かれた項目の下の説明を読んでいく俺達。しかしながら最後には小さく※印で『似た者同士の二人、正反対の二人、どちらが良いということではありません。一長一短あります』という、結局どっちつかずなコメントが添えてあった。

「私と米倉君の似てるところってどこだろうね?」
「んー、のんびり屋な性格とか?」
「うん。それは合ってそう」

 総合的な相性評価の後に続くのは性格の比較。四種類の観点から比べて点数付けをしているものの、これまた最初には『なお、「性格が違う=相性が悪い」ということではありません』という注意書きがしてあったりする。



【性格比較その1。論理性や正しさを大事にするか、気持ちや感じ方を大事にするか】

・米倉櫻さん
 論理性や正しさよりも、やや、気持ちや感じ方を重視する傾向にある。たまに目先の気持ちに振り回されて、重要なことを見失うこともあるが、この傾向が「強すぎる」わけではないので、極端な人ではない。バランスは取れている。

・夢野蕾さん
 論理性や正しさよりも、気持ちや感じ方を重視する。その傾向が強すぎるので、しばしば「筋が通らない」「目先のことしか考えない」状態に陥る。ただし人間としては魅力があり、分かりやすく、シンプル。

・この点での相性は?
 中途半端に近いので、分かり合いやすい面はありますが、いまいち惹かれなかったり尊敬し合えないかもしれません(スコア、60点)



「心当たりあるかも」
「俺もだ」
「お互い目先の気持ちに振り回されないようにしないとね」
「そうだな」

 真っ先に思い浮かんだのは文化祭の時の暴走。これもバーナム効果ではあると思うが、こんな診断にまで警告されたような気がして改めて反省する。
 夢野が論理性よりも気持ちを大事にするというのは割とイメージ通り。仮にこれが阿久津だった場合、言うまでもなく論理性に極振りになるに違いない。



【性格比較その2。 競争や力を重視するか、協調性や思いやりを重視するか】

・米倉櫻さん
 ときに力の論理を重視し、ときに思いやりや協調性を重視する。どちらにも偏っていない。

・夢野蕾さん
 やや「思いやり」「協調性」を重視する傾向にある。例えば結果が出なくても「結果が全て」ではなく「頑張ったことが大事」などと考えがち。様々な経緯や背景なども含めて考えるので、単純に弱いのが悪い、能力が低いのが悪い、などと考えない。優しいが、現実を前にして多少は甘いところがある。

・この点での相性は?
 この点ではとても似通っています。長期的な摩擦は減りますが、お互いの尊敬や刺激、という点では物足りないかもしれません(スコア、20点)



「基本的に似てると点数が低いんだね」
「そうみたいだな。それにしてもさっきから俺、中途半端な結果ばっかりじゃないか?」
「ふふ。私は合ってると思うよ?」

 そして心なしかこの診断、やたら尊敬について示唆してくる気がする。付き合った後も長続きするためには、尊敬されるような人間にならないと駄目ってことか。



【性格比較その3。野心や向上や生産を重視するか、日常や平穏や消費を重視するか】

・米倉櫻さん
 目標を達成したり、努力で何かを積み上げていこうという人ではない。完全に、毎日をハッピーに、穏やかに、できればダラッと生きていきたいタイプ。ガツガツしている人にとって清涼剤のような存在にもなり得るし、お荷物にもなり得る。

・夢野蕾さん
 どちらかと言えば、毎日の小さな幸せを噛みしめるよりは、目標を達成したり、価値あることをしたいと思うタイプ。尊敬や感心されやすい人だが、一緒にいると落ち着かないかもしれない。

・この点での相性は?
 成功や向上すること、毎日を平穏に暮らして気持ちを満たしていくこと、どちらも重要だということを理解し合う必要があります。分かり合えれば、良い組み合わせだと言えるでしょう(スコア、80点)



「ようやく中途半端じゃなくなったと思ったら、滅茶苦茶に言われてる気がするぞ?」
「今もこうやって勉強、一生懸命頑張ってるのにね」
「よし! いっそのこと主夫になるか!」
「米倉君、料理できるの?」
「ラーメンとカレーとシチューなら任せろ!」
「小学生の好物みたいなラインナップだね」
 清涼剤ならまだしも、お荷物にはなりたくないところ。清涼剤という言葉は隣に寄り添っている少女にこそピッタリな気がするが、何だかんだで夢野はしっかり者だもんな。



【性格比較その4。マメにコミュニケーションを取るか、取らないか】

・米倉櫻さん
 マメに気持ちを伝え合ったり、普段から何気ないことも共有したがるタイプ。どうでもいい内容のメッセージなども送りたがる。この傾向がとても強い。同じような姿勢を持った人とでなければ、トラブルを生じると予想される。

・夢野蕾さん
 マメに気持ちを伝え合ったり、普段から何気ないことも共有したがるタイプ。どうでもいい内容のメッセージなども送りたがる。この傾向がとても強い。同じような姿勢を持った人とでなければ、トラブルを生じると予想される。

・この点での相性は?
 どちらもマメで、しっかりコミュニケーションを取る人。とても相性が良いと言えます。(スコア、100点)

「100点!」
「同じ結果だな」
「いえーい♪」
「イエーイ!」

 笑顔で手を挙げてきた夢野に、パチンとハイタッチを交わす。
 この項目に関しては同じだからこそ相性が良いらしい。実際のところ俺と夢野は毎日のようにメールで語り合っているが、お互いにWINWINの関係だったってことか。
 性格比較が終わると、最後は興味関心の方向について。二人の趣味や興味が重なった数は二個と少なかったが、方向性の合致スコアはこれまた100点であり俺達は再度ハイタッチを交わす。

「全体的に点数は高い気がするけど、どうして28%なんだろうね?」
「確かに。何でだろうな。他の診断もやってみるか?」
「うん!」

 割と当たっていた気がする相性診断にすっかりのめり込んでいた俺は、肩にもたれかかっている少女と共に次なる診断を始めるのだった。
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登場人物紹介

米倉櫻《よねくらさくら》


本編主人公。一人暮らしなんてことは全くなく、家族と過ごす高校一年生。

成績も運動能力も至って普通の小心者。中学時代のあだ名は根暗。

幼馴染へ片想い中だった時に謎のコンビニ店員と出会い、少しずつ生活が変わっていく。


「お兄ちゃんは慣れない相手にちょっぴりシャイなだけで、そんなあだ名を付けられた過去は忘れました。そしてお前は今、全国約5000世帯の米倉さんを敵に回しました」

夢野蕾《ゆめのつぼみ》


コンビニで出会った際、120円の値札を付けていた謎の少女。

接客の笑顔が眩しく、透き通るような声が特徴的。


「 ――――ばいばい、米倉君――――」

阿久津水無月《あくつみなづき》


櫻の幼馴染。トレードマークは定価30円の棒付き飴。

成績優秀の文武両道で、遠慮なく物言う性格。アルカスという猫を飼っている。


「勘違いしないで欲しいけれど、近所の幼馴染であって彼氏でも何でもない。彼はボクにとって腐れ縁というか、奴隷というか、ペットというか、遊び道具みたいなものでね」

冬雪音穏《ふゆきねおん》


陶芸部部長。常に眠そうな目をしている無口系少女。

とにかく陶芸が好き。暑さに弱く、色々とガードが緩い。


「……最後にこれ、シッピキを使う」

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