四日目(木) 俺の両親が予想の斜め上だった件

エピソード文字数 2,579文字

「…………はよ」
「あらおはよう。今日は珍しく早起きね」
「何か目ぇ覚めた……」

 暖められたリビングに下りるなり、台所で米を研いでいる母親と挨拶を交わした。
 大人にはクリスマスなんて休みは存在しないらしく、平日であれば当然仕事がある。我らが母上の仕事は看護師だが、本日は午後からの勤務らしく割とのんびりしていた。

「はよざっす、お兄ちゃん」
「おっす」

 俺同様に朝が弱い姉貴はまだ寝ているようだが、いつも元気な梅は既にストーブの前で待機済み。両親がクリスマスプレゼントに驚く様を見る準備は万端といったところか。
 これから何が起こるのか……その答えを説明するために六時間ほど遡ってみよう。



 ★★★



(どうだ?)
(カンペキング!)

 テーブルの上には購入したマグカップと、ケトル&コーヒー粉を用意。そしてその傍らに筆記体で書いたメッセージカードを置いた姉貴が、小声で呟きガッツポーズする。
 ちなみに内容は『昔コーヒーを淹れて貰ったお礼に、ささやかなお返しです』というもの。筆ペンで書かれたカードは、いかにもな雰囲気の字でセンス抜群だった。

(お父さんとお母さん、ビックリするかな?)

 ワクワクのあまり、満面の笑みを浮かべている梅が嬉しそうに囁く。実はこのマグカップ、お湯を注ぐと模様が変わるという秘密が隠されていた。
 まず起きた両親は思わぬクリスマスプレゼントに驚くだろう。そしてマグカップにコーヒーを注いだ結果、模様が変わって更なるドッキリという二段構えの完璧な計画だ。



 ★★★



 …………そう、完璧な計画の筈だった。

(で、状況は?)
(完全スルーであります)

 チラリと米研ぎを終えた母さんを見れば、淡々と朝食の準備を始めていた。未だテーブル上のマグカップは箱に入ったままで、気付いてはいるだろうが開けられてはいない。
 まあ準備が一段落すればコーヒーを飲むだろうし、まだターゲットはもう一人いる。

「………………おはよう」
「「「おはよう」」」

 そう考えた傍からナイスタイミングで父上が登場。寝起きのボーっとした目で頭をポリポリ掻きつつ、フラフラ歩きながらテレビの上に置いてある眼鏡を装着した。
 そのまま台所へ向かうと、母さんがついにケトルを手に取る。

「お父さん、コーヒー飲みます?」←普段使ってるカップ

 何故だ母上。何で用意されているマグカップを使ってくれないんだ。
 ことごとく期待を裏切る母親をよそに、父さんがテーブルの上のマグカップを見る。

「ん? 何だこれ……?」
「「!」」
「そうそう。何かマグカップが置いてあったんだけど、ひょっとして櫻の?」
「いや、違うけど……」
「梅でもないし櫻でもないなら、きっと桃のかしら」
(…………どうしよう、お兄ちゃん)

 何で手を付けないのかと思ったら、どうやら自分達へのプレゼントだと理解していなかったらしい。このままでは普通のマグカップにコーヒーが注がれてしまう。
 どうにかできないかと必死に考えていたら、テーブル席に着いた父上がメッセージカードの存在に気付いてくれた。そう、そうだよ父さん。それを読んでくれ!

「ん……何か書いてあるけど、母さん読める?」
「え? お父さんも読めないの?」
「何語だこれ? 英語か?」

 …………駄目だこの両親、早く何とかしないと。
 つーか昔残してあったカード、筆記体だったんじゃないのかよ。パソコンで作ったとか知人に頼んだとかそういう事情は知らんが、まさか本人達が読めないとは完全に予想外だ。
 仕方ないので立ち上がると、それとなく台所へ向かいカードを覗き込む。俺も筆記体は書けないし読めないが、大体の意味は姉貴から聞いているし一部の単語は判断できた。

「クリスマスって書いてあるし、何かサンタからのプレゼントっぽいけど?」
「あらそうなの」

 そのままさりげなく台所を通り過ぎて洗面所へ。若干計画はズレたものの、最終的にはコーヒーを淹れてビックリしてもらえれば問題ないだろう。
 普段使っているマグカップを手放し、新しいマグカップに興味を示した母親を見てホッと一息。それでもまだ油断はできないと、顔を洗いながら両親の動向をチラリと観察した。

「…………ふーん」

 あのですね母上様、中に入っていた説明書を先に読まないでください。
 確かに新しい道具を使う際には、まず説明書を読むという行為は正しいですよ。しかし当然そこには色が変わることも書いてある訳で。もう駄目だぁ……おしまいだぁ。

「ね~お母さん、使わないの?」
「え? ほら、すすぐの面倒じゃない」
「それくらい梅がやるよっ!」

 もう驚かなくていいから、せめて使ってほしい。
 俺と同じ気持ちだったのか、ついに痺れを切らした妹が動き出す。母さんの代わりに手早くマグカップを洗い、テーブルの上に置いた後で俺と共にストーブ前へと戻った。
 流石にここまで下準備をすれば、もう大丈夫だろう。

『トポポ』

 コーヒー粉を入れたマグカップへお湯が注がれる。
 しかしここまで用意しても、我らが母上は俺達の期待を見事なまでに裏切ってくれた。

(お兄ちゃん……)
(ああ。入れた量が少なすぎて、ほとんど変わってねえ……)

 模様が変わったのはマグカップの容量に対して半分にも満たない程度。最早わざとなのかと疑いたくなる中で、父さんがコーヒーを飲もうとカップを手に取った。

「ありがとう……ん?」
「「!!」」

 握り締めたマグカップを、未だ説明書を読んでいない父上が不思議そうにまじまじと眺める。どうやら神は俺達を見捨てなかったらしく、思わず梅と一緒に身を乗り出した。

「…………最初からこんなんだったか」
「「違うよっ!」」

 うん、やっぱ神様なんて信じるべきじゃないよな。
 結局その後で母上から、模様が変化する種を明かされる始末。俺達が考えた最強のドッキリは、予想以上に天然を見せつけてくれた両親により大失敗で終わるのだった。

「あら。確かその時に用意したの、コーヒーじゃなくてココアじゃなかった?」
「「え」」

 まあ仮にココアを用意しても、結果は変わらなかったと思うので一言。知らんがな。
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登場人物紹介

米倉櫻《よねくらさくら》


本編主人公。一人暮らしなんてことは全くなく、家族と過ごす高校一年生。

成績も運動能力も至って普通の小心者。中学時代のあだ名は根暗。

幼馴染へ片想い中だった時に謎のコンビニ店員と出会い、少しずつ生活が変わっていく。


「お兄ちゃんは慣れない相手にちょっぴりシャイなだけで、そんなあだ名を付けられた過去は忘れました。そしてお前は今、全国約5000世帯の米倉さんを敵に回しました」

夢野蕾《ゆめのつぼみ》


コンビニで出会った際、120円の値札を付けていた謎の少女。

接客の笑顔が眩しく、透き通るような声が特徴的。


「 ――――ばいばい、米倉君――――」

阿久津水無月《あくつみなづき》


櫻の幼馴染。トレードマークは定価30円の棒付き飴。

成績優秀の文武両道で、遠慮なく物言う性格。アルカスという猫を飼っている。


「勘違いしないで欲しいけれど、近所の幼馴染であって彼氏でも何でもない。彼はボクにとって腐れ縁というか、奴隷というか、ペットというか、遊び道具みたいなものでね」

冬雪音穏《ふゆきねおん》


陶芸部部長。常に眠そうな目をしている無口系少女。

とにかく陶芸が好き。暑さに弱く、色々とガードが緩い。


「……最後にこれ、シッピキを使う」

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