第15話

文字数 998文字

「……ん」

 夜中、目が覚めた。寝心地は悪いし、雨だって当たっている。だが、目が覚めたのはそれが理由ではなかった。

 地震というか、地響きというか。地べたに寝ていたから余計に感じた。身体を起こして、目を擦る。一際視線を集める紅い光点に意識が向いて、理解した。

「なんだ……あれは……」

 深紅の矢が、超高速で自由自在に飛び回っていた。それはやがて減速して、政庁でもある高層ビルの屋上に張り付いた。

「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 その“深紅の魔龍”は、吼えた。

 そう、魔龍だった。燃え続けるような翼膜を持つ四翼。黒鉄のような外殻にはひび割れのようなものが幾つもあり、そこから深紅のブレスエネルギーが噴出し続けていた。まるで、全身がロケットエンジンの様だった。

 奴が何をやったのか、すぐに理解できた。沿岸部の方で爆炎による灯りと、煙が上がっていた。超高速で飛行し、自ら纏ったエネルギーで自身を弾丸、矢にして突っ込んだのだろう。

「二十二年だ! 二十二年待った! 先代龍王の仇を討つため、我らの“天命”を全うする為、龍王ラインハルトがここに宣言する! 貴様ら人類への宣戦布告だ!」
「宣戦布告……」

 これまでは斥候程度の散発的な龍の襲撃だった。だが、今日からは違うだろう。王による宣戦布告は、人と龍との戦争、その本格化を予見させた。

「龍だ!!」

 誰かが叫んだ。それはラインハルトを指しての叫びではなかった。手薄になった防衛ラインから、龍が内地に侵攻してきたのだ。

 夜の繁華街、酒飲共の酔いはすぐに覚めて、雲の子を散らすようにして各々が逃げ惑う。地下シェルターは存在するが、基本的には富裕層がそれらを独占している。今目に見える逃げ惑う連中は、それらに一切該当しない。政府に金払いがいいとか、“そういう連中”は既に避難しているだろう。

「逃げないと……」

 そう、勿論俺も該当しない。住所不定無職。助けてくれる者は何処にも居ない。

「!」

 目の前でバスが爆発した。龍のブレスが直撃したのだ。

「ぐおおおおお!!」

 目が合った。龍と。魔龍と違い、龍は言葉を発しない。それはつまり一切、話し合う余地すらないということだ。龍が何を考え、何を目的としているのか、なぜ人を殺すのか。そのどれもが謎のままだ。唯一コミュニケーションが取れる魔龍も、こちらへ情報を開示することは一切ない。だからこの戦争は世界各国で長期化しているのだ。
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