第43話

文字数 1,086文字

 ジークの手にはあの、黒のファンタズマが握られていた。

 魔龍ヨハンは身体中からブレスエネルギーを放出し、再びおびただしい数のブレスエネルギー球体を生成する。

「ジーク! 気を付けて! あの玉は爆発するやつもあるよ!」
「……ありがとう」
「余計な!」
「お前の相手はこの俺だ!」

 ジークがファンタズマを振り抜く。纏った黒いエネルギーが斬撃の形を成して、ヨハン目がけて飛翔する。そのエネルギー質量と威力が、ヨハンの命を脅かすのに十二分だと察して、ヨハンは大きくそれを回避する。そして随伴する球体二つから曲がるブレスを放った。

 ジークは黒く光る一枚の翼を使って、同じく大きく回避運動をした。

「?」

 その動きを見て、ヨハンは仮説を立てた。そして間髪入れずにブレスを放つ。

 ジークは同じく大きな旋回軌道を持ってそれらを全て回避。さらに身をひるがえして振り向きざまに斬撃ブレスを放つ。

 ヨハンはそれを回避して、一度攻撃を止めた。

 ジークも同じだった。ファンタズマを見つめて、頭をかしげている。

“やはり奴は、まだあの武器を完全に使いこなしていない!”

 ヨハンの予想は当たっていた。黒いファンタズマは右腕と右足にしかエネルギーのハーネスが巻かれていない。つまり全身の舵取りを右腕右足のみで行う必要がある。通常のブレス・ウイングであれば身体全体が浮くような感覚なのだが、ジークが今感じているのは梯子に右腕と右足をかけているような、重心が偏った状態なのだ。

 更に攻撃方法も一つしかわかっていない。何か内に感じるものはあるが、ものに出来ていない。

 ジークは、決断をした。

“今のままでは難しいかもしれない”

 そして、彼もまた仮説を立てていた。
 ジークは急転換、急降下してビル群へと突っ込んだ。

「飛行に関してはまぁ、大丈夫だろう」

 ビルの間を縫うようにして飛行、ヨハンから距離を取る。

「ジーク様……」

 あえて街を巻き込むような立ち回りに思えた。だがそれはジークのいくつかの仮説を立証するのに必要だった。

 そう、ヨハンが追うのを少しためらっているのだ。

“やはり。王はラインハルト。つまり王の魂は本来奴に差し出さなければならないのではないか?”

 ジークの仮説も当たっていた。ヨハンをはじめラインハルト配下の魔龍は、王より“先代王の魂”を見つけ次第回収または報告せよとの命を受けている。ヨハンも当然、発覚時点でラインハルトに知らせる義務があった。

 だがヨハンはそれを拒み、王の魂を自らのモノにしようとした。王への反逆である。

 そう、ジークが低空飛行で向かう先には、スレイとラインハルトが鎬を削る戦場があるのだ。
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