第34話
文字数 1,254文字
気まずい沈黙を、サイレンが切り裂いた。
「!?」
「空襲……」
「グラディア隊、総員出撃準備っ!」
隊長の号令放送で、隊舎内がドタバタと忙しくなる。
「行けよ」
「え?」
「俺はどうせ後方支援だろ? 君は重要な戦力だ」
「いいえ、スレイにお願いして、ジーク様の補佐をすることに決定しました」
「なんだって?」
「戦うのがお嫌いなのも、王にそっくりです」
「記憶が無い。これは俺の意志だ」
「それでも、です。それにスレイは、ジーク様の配属はジーク様に決めさせると言っていました。弱いけど、伸び代がある。だから本人に決めさせるって」
「……」
「もう一度伺います、ジーク様。なぜ、あの日、イオ・ウルフラムと共に飛んだのですか?」
「……後方支援だ」
「はい?」
「後方支援なら、やる。行くぞ、集合だ」
「……わかりました!」
話を誤魔化しているのはわかっている。俺は自分が嫌いになっていた。
「よし、集まったわね」
スレイ隊長は、道場の前に隊員を集めて小隊編成をさせていた。流石エリート部隊、何も言わずにスムーズに決まる。俺はユキヅキ補佐官に言われるがまま、後方支援部隊の後ろについた。グラディア隊長と目が合う。
「……」
「……」
彼女は何も言わずに、全体に意識を向けた。
「今日は新人もいるから、改めて。私の部隊に、律儀に赤信号を守る隊員は必要ありません。各自、必要に応じて、自分の意志で行動を決めるように。それと、ミスをしない人間も必要ない。ミスをしてもすぐにリカバリー出来る人間が必要です。だから、沢山失敗しても構わない。でも、どんな失敗をしたとしても、死ぬな。いいわね」
「了解っ!」
「……いい部隊だ」
「でしょ?」
ユキヅキ補佐官が笑ってみせた。
「でも気をつけてください。今日はラインハルトと、ヨハンが来ます」
「ヨハン?」
「ブレスの扱いに長けた歴戦の猛者です」
「詳しいな」
「魔龍は全て王の血族ですから。私と王の子達です」
「……今なんと」
「魔龍は全て、私と王の子です」
それはつまり……ユキヅキと……子作りということか……。
「ふむ」
「ジーク様?」
「なんでもない」
「出撃っ!」
スレイ隊長の号令で、隊員が一斉に飛び立つ。俺とユキヅキもそれに続いた。最前線部隊はグラディア隊の他にも沿岸部にいくつかある。だが沿岸部中央に位置するグラディア隊が一番、各地の援護含めた対応に追われる立ち位置だ。一キロに及ぶ廃墟区画を抜けた先にある海。その洋上に、確かに龍の群れが確認できた。時刻は夕方。俺達は夕日を背負って龍を待つ。
緊張を解いたわけではない。誰もがそうだろう。だがそれでも、反応出来ないものがある。
“紅点”
そう思った。群れに紅い点が見えたような気がしたのだ。その“気がした”が確信に変わったのは、防壁を魔龍が貫通した爆発音を聞いてからだった。
「!?」
「また!?」
スレイ隊長がうんざりして叫んだ。防壁の穴が炎上し、数門の大砲も火を噴いていた。
「ラインハルト……!」
ユキヅキがそうつぶやいて、ようやく理解が追い付いた。深紅の矢が再び政庁に取りついた。
「!?」
「空襲……」
「グラディア隊、総員出撃準備っ!」
隊長の号令放送で、隊舎内がドタバタと忙しくなる。
「行けよ」
「え?」
「俺はどうせ後方支援だろ? 君は重要な戦力だ」
「いいえ、スレイにお願いして、ジーク様の補佐をすることに決定しました」
「なんだって?」
「戦うのがお嫌いなのも、王にそっくりです」
「記憶が無い。これは俺の意志だ」
「それでも、です。それにスレイは、ジーク様の配属はジーク様に決めさせると言っていました。弱いけど、伸び代がある。だから本人に決めさせるって」
「……」
「もう一度伺います、ジーク様。なぜ、あの日、イオ・ウルフラムと共に飛んだのですか?」
「……後方支援だ」
「はい?」
「後方支援なら、やる。行くぞ、集合だ」
「……わかりました!」
話を誤魔化しているのはわかっている。俺は自分が嫌いになっていた。
「よし、集まったわね」
スレイ隊長は、道場の前に隊員を集めて小隊編成をさせていた。流石エリート部隊、何も言わずにスムーズに決まる。俺はユキヅキ補佐官に言われるがまま、後方支援部隊の後ろについた。グラディア隊長と目が合う。
「……」
「……」
彼女は何も言わずに、全体に意識を向けた。
「今日は新人もいるから、改めて。私の部隊に、律儀に赤信号を守る隊員は必要ありません。各自、必要に応じて、自分の意志で行動を決めるように。それと、ミスをしない人間も必要ない。ミスをしてもすぐにリカバリー出来る人間が必要です。だから、沢山失敗しても構わない。でも、どんな失敗をしたとしても、死ぬな。いいわね」
「了解っ!」
「……いい部隊だ」
「でしょ?」
ユキヅキ補佐官が笑ってみせた。
「でも気をつけてください。今日はラインハルトと、ヨハンが来ます」
「ヨハン?」
「ブレスの扱いに長けた歴戦の猛者です」
「詳しいな」
「魔龍は全て王の血族ですから。私と王の子達です」
「……今なんと」
「魔龍は全て、私と王の子です」
それはつまり……ユキヅキと……子作りということか……。
「ふむ」
「ジーク様?」
「なんでもない」
「出撃っ!」
スレイ隊長の号令で、隊員が一斉に飛び立つ。俺とユキヅキもそれに続いた。最前線部隊はグラディア隊の他にも沿岸部にいくつかある。だが沿岸部中央に位置するグラディア隊が一番、各地の援護含めた対応に追われる立ち位置だ。一キロに及ぶ廃墟区画を抜けた先にある海。その洋上に、確かに龍の群れが確認できた。時刻は夕方。俺達は夕日を背負って龍を待つ。
緊張を解いたわけではない。誰もがそうだろう。だがそれでも、反応出来ないものがある。
“紅点”
そう思った。群れに紅い点が見えたような気がしたのだ。その“気がした”が確信に変わったのは、防壁を魔龍が貫通した爆発音を聞いてからだった。
「!?」
「また!?」
スレイ隊長がうんざりして叫んだ。防壁の穴が炎上し、数門の大砲も火を噴いていた。
「ラインハルト……!」
ユキヅキがそうつぶやいて、ようやく理解が追い付いた。深紅の矢が再び政庁に取りついた。