第40話

文字数 1,033文字

「生娘三人……男は……そうか、そういうことかっ!」

 ヨハンはファンタズマが遺した残穢のようなものを辿っていた。それは王の魂の残穢であった。

 だが目当てのモノは別にあった。ヨハンは嬉々として別行動の男を追いかける。

「さぁ、その顔を見せてみろっ!」

 畳みかけるようにブレスを放つ。男は独り言を言いながらそれらを不器用に躱していく。

 その横顔を見てヨハンの魂が確信した。“探し物”がまさにあれだと。

「ヨハンっ! あなたの相手は私ですっ!」

 ユキヅキがブレス・ライフルを放つが、エネルギーを纏った翼に阻まれる。

「我が名を知る者……ここは特異点か? 我々の探し物が、今宵はここに集まるのか」
「……ヨハン」

 余裕綽々の様子を見せるヨハン。ユキヅキは静かに、隊服の第一ボタンを外していた。

「我が名はヨハン! 王に使える深翠の射手である! 命が惜しくなければ私に挑むがいい!」

 ヨハンが叫んだ。ミホとキセキは一瞬たじろいだ。二人はまだ経験が浅いながらも、よく龍を監察し、考察することで生き残ってきた。


 学生時代、スポーツを嗜んだ者であれば分かるだろう。道具の扱いがもはや身体の一部になっている者。同じスポーツウェアにもかかわらず似合う、様になっている。一流になると柔道着の着方で実力が分かるとまで言われているが、彼女たちが感じているのは今まさにそれであった。

 ヨハンの立ち振る舞い。翼の動かし方。目線の散らし方、意識の割き方。どれをとっても眼前の魔龍は歴戦の王だと、本能が警告していた。

 その警告を上書きしたのがユキヅキの気迫であった。彼女は果敢にもヨハンに接近し、ライフルで執拗に目と翼を狙う。翼は時折防御に使われるが、やはり定点照射は避けたいのか、エネルギーを纏った状態でブレス光線を弾き飛ばすような使い方に限定していた。

 ミホとキセキの身体が動いていた。キセキが目を狙って、ライフルを放つ。ヨハンは左右からの攻撃に、回避行動を強いられる。そして褐色の女を見失ったことに気付く。

「直上か」

 人間が取れる選択肢は限られていると、ヨハンは知っていた。死角を突くなら背後か直上しかないと知っていた。周囲にブレス球体を生み出し、ミホへブレスを放つ。ミホは降下に急ブレーキをかけて、曲がるブレス群をいなす。そしてブレス・ライフルでもってヨハンのブレス球体を撃ち抜いた。

「!?」

 たくわえたエネルギーを全て吐き出す前に、それを保つバランスが崩れた球体は爆発。ヨハンの翼にわずかに傷をつけた。
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