第52話

文字数 1,148文字

 ビンセントのファンタズマ“矛想ノ盾牙(ムソウノジュンガ)”は防戦を得意とするファンタズマ。

 盾に対し様々な誓約を課すことで、高い防御性能を発揮する。

 例えば空間に固定した盾は、“その座標から一切動かすことができない”という縛りを設けることで高い防御性能を発揮する。

 ジークを助けた際に出した盾は逆に、“防御能力以外の全ての要素を廃する”ことで高い防御性能を発揮した。

 続いて彼が生成した盾は、彼の左腕に装備されているかのように追従する盾だった。大きさは上半身も収まらない、所謂バイタルエリアを守る程度の大きさである。

「へぇ……」

 コンドウは引き撃ちに徹していた。戦場は内地へと戻っていく。

「どうするよ! 隊長さん!」

 距離を詰めるビンセントに向かって、再び放たれるチャージ弾。コンドウは高度を上げて放っている。下方へ放たれたそれは、躱せば街に着弾し、受ければ爆発する。小さな盾では不十分。今から空間に盾を生成しても、加速したビンセントは爆炎に飛び込むことになる。

「んっ!」

 ビンセントは左腕を斜め右から左下へ振り下ろす。光弾に対して盾を斜めに当てて、そのまま弾く。衝撃でビンセントは顔をしかめたが、弾かれた光弾は放物線を描いて廃墟エリアへ着弾、爆発した。

「マジ」
「もらった」

 ビンセントはコンドウを殺すつもりで再接近する。ディサイシジョンにも可変盾はある。ブレス・シールドを集中展開して、頑丈にすることは可能だ。だがその強度はまだ実用レベルではない。つまりコンドウは、近接戦闘で迎え撃つ事になる。長いライフルでは上下左右に軌道を変えられた時に対応が困難だからである。

 そしてコンドウは、サーベルを捨てた。

 ビンセントは一瞬に満たない動揺と疑問を感じたが、構わずに攻める。

「……」

 コンドウがファンタズマを抜いた。そして、ビンセントはそのまま失速して、落下し始める。

「これは……」
「そういうこと」

 そう言うコンドウも、落下を始めていた。

「どうせ知ってんだろ? 俺のファンタズマは“月下美人”。発動して展開したエリア内において、“一切のブレスエネルギーが利用できなくなる”結界」
「話には聞いていたが、見るのは初めてだな」

 その空間の中ではライフルもサーベルも役に立たず、飛行も不可となる。当然ファンタズマにも干渉し、全ての能力を無効にする。

「使えるのは俺のファンタズマだけ。つっても遠距離攻撃は無いし、飛行機能も使えない。エネルギーを込めて斬れるって程度だが……」


 コンドウは落下前にファンタズマを解除し、一度ウイングで浮力を得る。ビンセントもそれは理解しており、同じように一度落下速度をゼロにする。そしてコンドウがファンタズマを起動し、二人の戦場は地上で、ブレスエネルギー無し、という状況になる。
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