第76話

文字数 818文字

「さぁ、始めようか」

 私は嬉々として装置を起動した。人の化学、そして龍の魔力に似た力。その結晶たる装置で、今、儀式を開始する。

 邪魔者は全て排除した。不安要素も、不確定要素も、全て。

 長かった。本当に長かった。王を取り逃がし、クォーツの技術を奪い、昇華させ、人間界に潜入した。大臣共を王の亡骸で買収し、地位を得た。

 兄を殺した小娘の機嫌を取り続け、勘違いした英雄をおだて、祭り上げてその気にさせて、王の“鍵”を開花させた。

 そして私は生まれ変わる。“大いなる目的”のために、ユキヅキも始末して、今、この瞬間、次のステージに進めるのはただ一人、私だけだ!

「祝福しろっ!」

 そして私の身体は、眩い輝きに包まれた。

「!」

 意識が戻った時、私は地下から天井を突き破って、地上に舞っていた。装置も翼も無く、人の姿をしながらも、背中に四つの光翼を背負う。

「なんだあれは!?」

 凡夫には永遠に理解できない。モブキャラは永遠に、状況に巻き込まれ続けるのがお似合いなのだ。

 人の姿を保ちながら、龍を超える能力を得た。私はもうすでに、全ての生物を超越し、人の理から外れた存在になったのだっ!

 諸手には、黒と赤のファンタズマ。王の力と、私自身の力、その具現。

「さぁ、お前たちの悲鳴で奏でろっ! 王の誕生を祝う讃美歌をっ!!」

 見ろ。間抜け面で空に浮く劣等種共を!

 王の誕生に震え、怯えるがいい。全てを支配して、私のモノにしてみせる。そして、この世の理に抗ってみせる!

「!?」
 何かが私を襲った。それは人でも龍でもない、一筋の光。

 私は咄嗟に防御姿勢を取っていた。

「なぜだ」

 私の邪魔を出来る者がまだ……居たか?

 私は光りの矢を弾き飛ばした。その攻撃は、政庁の隣にある駐車場に空いた大穴からだ。

「まさか……」

 私は苛立つ。なぜ、完全なる生命体に進化した私が、そんな感情を味わう必要があるのだ。

 これは、喜劇だな。

 その男は、私と同じように、光翼を背負っていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み