第72話
文字数 1,472文字
地下空洞はまるで放水路の調圧水槽のようだった。幾つも柱が並び、かなり広い。そして死角も多く、ラインハルトが見つからない。
「よく来たな」
「! どこだっ!」
奴の声だ。だが、反響してどこにいるのか分からない。
「スレイ。聞いているか?」
「なによラインハルト。気安く呼ばないでほしいんだけど」
「君はなぜ龍伐隊に入ったのだ?」
「……父の無念を晴らす為よ。お父さんは龍王討伐作戦で……死んだわ。王に殺された。敵討ちは出来ないけど、父の代わりに私は龍を殺すの」
「もし敵討ちが出来るとしたら?」
「……は? もしかして……」
その会話を俺は黙って聞きながら、ラインハルトの姿を探す。
「ふふふ。私ではない。私はあの時神殿にはいなかった。だがね、スレイ。教科書というのは作る連中にとって都合がいい事実しか書かれない。いや、事実も捻じ曲げられる」
「どういうことよ!」
「王の討伐は失敗している」
「嘘よ! だって! ジークが持ってるファンタズマは、万死は、王の素材から作られたのよ!? 王の死体を持ち帰った証明じゃない!」
「違う。魂が無い。そこには。抜け殻。だから誰にも適合しなかった。じゃあ、今その魂は何処にあると思う……」
「よせ。奴の話を聞くな」
俺は思わず制した。スレイの顔は怖くて見れなかった。俺は知っている。彼女の父を殺したのは王ではない。クォーツだ。
「五月蠅い! ラインハルトっ! 答えなさい! 王の魂は今、どこにあるのっ!」
「君の後ろだよ」
「……」
「……」
あぁ、こうなるのか。
「ジークっ!」
スレイは既に炎龍を俺に振り下ろしていた。
俺は加速して後ろに下がる。彼女は既に錯乱しているのか。
ラインハルトの姿は見えないまま。まずは彼女を落ち着かせるしかない。
「あんたが私のお父さんを……あんたが!」
「止めろスレイっ! 俺じゃないっ!」
「五月蠅いっ!!!」
俺は知っている。グラディア隊長。龍王討伐戦で、最前線に居た男。彼女と同じ性だから、そんな気はしていたが、彼女にとって龍の王は仇討なのだ。
そう、俺は知っている。彼の命を断ったのは、クォーツだと。だが今それを言ったところで、何故それを知っているのかという話になる。
それにクォーツは……彼女が信頼する部下でもある……。
「ちぃ!」
高速斬撃の応酬。捌き切れない!
「イオ!」
俺は万死から黒のブレスエネルギーを放出して、四肢に纏わせた。傀儡の様に、彼の魂が俺の身体を操作する。
攻撃は捌き切れるようになる。だが余裕は無い。この均衡はいつ崩れてもおかしくない。
「そうだスレイ! 仇を討てっ! 魂を潰せっ!」
「黙ってろ!!」
ラインハルトの野次。俺は闇雲にヨハンを撃った。光弾のほとんどが闇に消え、一部が柱に傷をつける程度だ。マグナム弾を撃ちまくって、柱を破壊してラインハルトを見つけるという方法もある。しかし柱を破壊しすぎればこの場所が崩壊する可能性もある。
「ジークが龍の王だ! 話が色々と噛み合うだろう? 奴が除隊になった途端に戦争が始まって、偶然ファンタズマに適合し、偶然魔龍を二頭討伐してみせた。それらは偶然か!? 王の魂が目覚めたからだろう!!」
「あの野郎……」
当たらずも遠からず。いやこの場合もうすでに、話の順番や整合性はどうでもいい。スレイは俺が王の魂を持っていると信じている。落ち着かせなくてはっ!
「スレイは父を龍に奪われ、空襲で母を失った! すべてを龍に奪われたんだ! 復讐するのは当たり前だよなぁ!」
「いい加減……!」
「くたばりなさいっ!」
スレイの袈裟切りを、誰かが正面から受け止める。
「よく来たな」
「! どこだっ!」
奴の声だ。だが、反響してどこにいるのか分からない。
「スレイ。聞いているか?」
「なによラインハルト。気安く呼ばないでほしいんだけど」
「君はなぜ龍伐隊に入ったのだ?」
「……父の無念を晴らす為よ。お父さんは龍王討伐作戦で……死んだわ。王に殺された。敵討ちは出来ないけど、父の代わりに私は龍を殺すの」
「もし敵討ちが出来るとしたら?」
「……は? もしかして……」
その会話を俺は黙って聞きながら、ラインハルトの姿を探す。
「ふふふ。私ではない。私はあの時神殿にはいなかった。だがね、スレイ。教科書というのは作る連中にとって都合がいい事実しか書かれない。いや、事実も捻じ曲げられる」
「どういうことよ!」
「王の討伐は失敗している」
「嘘よ! だって! ジークが持ってるファンタズマは、万死は、王の素材から作られたのよ!? 王の死体を持ち帰った証明じゃない!」
「違う。魂が無い。そこには。抜け殻。だから誰にも適合しなかった。じゃあ、今その魂は何処にあると思う……」
「よせ。奴の話を聞くな」
俺は思わず制した。スレイの顔は怖くて見れなかった。俺は知っている。彼女の父を殺したのは王ではない。クォーツだ。
「五月蠅い! ラインハルトっ! 答えなさい! 王の魂は今、どこにあるのっ!」
「君の後ろだよ」
「……」
「……」
あぁ、こうなるのか。
「ジークっ!」
スレイは既に炎龍を俺に振り下ろしていた。
俺は加速して後ろに下がる。彼女は既に錯乱しているのか。
ラインハルトの姿は見えないまま。まずは彼女を落ち着かせるしかない。
「あんたが私のお父さんを……あんたが!」
「止めろスレイっ! 俺じゃないっ!」
「五月蠅いっ!!!」
俺は知っている。グラディア隊長。龍王討伐戦で、最前線に居た男。彼女と同じ性だから、そんな気はしていたが、彼女にとって龍の王は仇討なのだ。
そう、俺は知っている。彼の命を断ったのは、クォーツだと。だが今それを言ったところで、何故それを知っているのかという話になる。
それにクォーツは……彼女が信頼する部下でもある……。
「ちぃ!」
高速斬撃の応酬。捌き切れない!
「イオ!」
俺は万死から黒のブレスエネルギーを放出して、四肢に纏わせた。傀儡の様に、彼の魂が俺の身体を操作する。
攻撃は捌き切れるようになる。だが余裕は無い。この均衡はいつ崩れてもおかしくない。
「そうだスレイ! 仇を討てっ! 魂を潰せっ!」
「黙ってろ!!」
ラインハルトの野次。俺は闇雲にヨハンを撃った。光弾のほとんどが闇に消え、一部が柱に傷をつける程度だ。マグナム弾を撃ちまくって、柱を破壊してラインハルトを見つけるという方法もある。しかし柱を破壊しすぎればこの場所が崩壊する可能性もある。
「ジークが龍の王だ! 話が色々と噛み合うだろう? 奴が除隊になった途端に戦争が始まって、偶然ファンタズマに適合し、偶然魔龍を二頭討伐してみせた。それらは偶然か!? 王の魂が目覚めたからだろう!!」
「あの野郎……」
当たらずも遠からず。いやこの場合もうすでに、話の順番や整合性はどうでもいい。スレイは俺が王の魂を持っていると信じている。落ち着かせなくてはっ!
「スレイは父を龍に奪われ、空襲で母を失った! すべてを龍に奪われたんだ! 復讐するのは当たり前だよなぁ!」
「いい加減……!」
「くたばりなさいっ!」
スレイの袈裟切りを、誰かが正面から受け止める。