第36話

文字数 1,009文字

 内地には何頭も龍が侵攻しており、街にブレスを吐き散らかしていた。いくつかの龍を倒す手伝いが仮にできたとしても、根本的な解決にはならない。

「魔龍を潰して、連中の士気を削ぐのが先だろうな」

 こうしている間にスレイ隊長が仮に負けてしまえば、この国は一瞬で浄土になる。内地に入った龍は一頭残らず討伐する必要があるが、それはこの国を浄土に変えないためだけではない。丸い大陸の東側に位置するギシミア国が龍に突破され、見失った場合、近隣諸国は背後からの奇襲を受けることになる。どの国も海岸線という絶対防衛ラインを死守しているからこそ、今この大陸の平穏は成り立っている。だからどの国の代表も必死になって守るのだ。大陸崩壊の責任を負うのが嫌だから、当然と言えば当然。

 だからこの状況は非常にまずい。龍はある程度はレーダーで行方を追えるが、山間部まではいられればトレースは不可能になる。隣国に“すいません、抜かれました”と報告しようものなら大陸から村八分にされる。

 それを恐れる立場の人間から、連絡が入った。

「ジーク、聞こえるか」
「はい」

 無線の声はオオトモ大臣。指令室からの通信だ。

「初手の空爆からビンセント総司令と連絡が取れない」
「そんな……」
「だから私が代わりに指示を出す。ジーク、この状況をどうとらえるか、回答しろ」
「……了解。魔龍……を筆頭に龍が内地に雪崩れ込み、ギシミア国最強の騎士はラインハルトの相手をするので手一杯。この状況を解決する一番の回答は魔龍の討伐です。魔龍は龍にとっても侵攻の象徴。部隊長を失って兵が退くかは不明ですが、士気は確実に下がります」
「まぁ頭を潰すのが一番だな。んで、ギシミア国でスレイ以外にもファンタズマ使いはいる。だがどの連中も、大臣連中の警備を命じられて出払ってる」
「どこまで……」

 クソなんだと言いかけたが、オオトモ大臣には伝わるだろうからそこで切り上げた。

「だが、俺はフリーのファンタズマ使いを知っている」
「……俺ですか?」
「そうだ」
「無茶言わないで。あれを使ったら法律違反で死刑にされます。ただでさえ、今の俺はまだ民間人の協力者です」
「そこは私に任せといてほしいなぁ。ジーク、君のファンタズマは今、十三番隊舎の武器保管庫にある。私の部下が準備はしている。それを使って魔龍を倒してくれないか。状況はこうしている間にも悪化する」
「……わかりましたよ! 信じますよ、オオトモ大臣」
「あぁ、頼む」
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