第20話

文字数 755文字

「はっ!!!」

 俺は刀を振り下ろしていた自分の手を、腕を、全力で停止させた。刀身が彼女の首筋に触れて、白い肌に一筋の赤い線を作り出す。俺は咄嗟に身を引いた。これ以上、彼女を傷つけないように。

「……」

 彼女は黙って、目を開けた。それまでの間、彼女は一切動いていない。無抵抗のままだった。

「ジーク様」
「君が、クォーツ……」

 彼女が手で首の傷をなぞる。血をふき取ると、傷が既に塞がっていた。それだけで、彼女が本当に龍なのだと理解できた。

「お待ちしておりました、ジーク様」
「君は何者なんだ」
「申し遅れました! 私はユキヅキ・ハナ。龍伐隊、グラディア隊の隊長補佐官です♪」

 そう言って彼女は、首をかしげてウインクしてみせた。

「補佐官……」
「お迎えにあがりました、ジーク様」
「その呼び方はなんだ。なんのドッキリだ?」

「ジーク様は、先代龍王の生まれ変わりなのです。戦争を止める為に、終わらせる為に、私に協力していただけませんか?」

「……なんのドッキリだ?」
「ドッキリじゃありません!」
「いや、言ってる意味が分からないんだが」
「ですから、転生した先代龍王が、ジーク様なんです!! 記憶を、ご覧になられたのでは?」

 口では否定していたが、追い詰められていくように、自覚させられている自分がいた。

 彼女の言う“記憶”。あれは見せられたのでなく、見たのでもない。まるで“思い出した”かのような感覚だったのだ。外部記憶じゃない。あれは“俺の記憶”だった!

 その事実が、恐ろしかった。

「待て待て……俺が王の生まれ変わり……だとして、戦争を止める? どういうこと……ですか?」
「説明すると長いのですが……」
「っ! 伏せろっ!」

 俺はユキヅキ補佐官を抱きかかえるようにして、アスファルトに倒れ込む。爆発が起きてその後で一頭の龍が降りて来た。
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