第85話

文字数 1,038文字

「ジーク! やめろっ!」
「いや、防衛線が前のめりすぎる。今出ないと取り返しがつかない!」
「おい! こら!」

 龍が開口し、ブレスを放つため、エネルギーを溜める。狙いは何処でもいい。龍の目的は、本能に従うこと。そして彼らは、生まれながらにして“人類の抹殺”を遺伝子にインプットされている。最大出力のブレスを放ち、街というカンバスを黒で汚すことに一切の躊躇いは無い。

「!」

 しかし、そのブレスは放たれることなく爆散した。散ったのは二頭の龍。どちらもブレスを吐く為に、ほんのわずかな隙を晒していたにすぎない。その一瞬で、二つの矢が通り過ぎた。黒と赤の、ブレスエネルギーを纏った矢。

「ったく、これ国際問題よ? ジーク」
「スレイ、オオトモの言うことも解るが、今やらなければ人死が出ていた。その方が外交的に問題だ」

 宙を舞うのは、二人。ジークと呼ばれた青年は黒い刀を右手に握り、背中からは黒く光る二つの右羽が伸びている。

 スレイと呼ばれる女性は、赤く伸びる髪をなびかせながら、四つの燃えるような赤い光翼を背負っていた。その右手は黒く長い手袋で隠されており、同じくエネルギーを煌煌と放つ刀を握っている。

「ってか死体死体! カクライ!!」
「わかってるっすよ!!」

 カクライと呼ばれたのは、一対の光翼を背負い飛翔する筋骨隆々の色男。大砲のような筒を担いでいる。そして特殊なコンタクトレンズを通して見えるのは、その筒から出ている照準補助の不可視光線。

「人使いが荒いっすね全く」

 カクライはドドン、ドドンとテンポよく、先の二人が屠った龍の亡骸に向けて引き金を二回ずつ引く。先端がブレスエネルギーでできた針のようなものが発射され、今まさに落下している最中である龍の死体に刺さる。

 そして龍の体内にあるエネルギー発生器官が反応したように見えた次の瞬間、針の尻から光る風船が膨らんだ。限界まで膨らむと、龍の死体が落下する速度が非常に遅くなった。

 落下による地上への被害は最小限に抑えられるだろう。

「やるならどっちか一人にしてほしいっす」
「どうして」
「なんでよ」

 カクライの素直な文句に、ジークとスレイが悪びれる様子もなく返す。

「二人であっちこっちやられたら拾いきれないっすよ! オオトモサンは俺以外出るなって指示出してるっす。この時点で、このメンツが最大戦力ってことっす! お分かり?」

 カクライが死体をキャッチする為には、“役割分担”しろという指示である。

「「じゃあ」」
「俺だな」「私ね」
「「あん??」」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み