第83話
文字数 1,575文字
それから、龍の襲撃はほぼ無くなった。たまに難民化した龍が迷い込む程度になり、龍目線、ギシミアという国に対する侵略意欲は削がれているのだと、実感した。
オオトモを議長とした独裁政権も、支持率が安定し、社会経済も改善の兆候が見え始めた。
「やることが沢山ある」
それが彼の口癖だ。
龍伐隊は新たに、一命を取り留めたコンドウを総司令に迎えて新しく立ち上がる。
教育方針から抜本的な改善案を出し合い、今までをはるかに上回る質の高い隊員達が育っている。
旧龍伐隊からの乗り換え時、適性検査で弾かれた者も多い。アグローらをはじめとする腐ったミカン達は淘汰された。
ファンタズマに適合しているという理由だけで採用されていた人材たちも、新たな基準で精査された。
利権の味が忘れられない企業経営者連中と、龍伐隊リストラ組が結託してクーデターを画策しているという噂はいまだ健在で、依然気が抜けない状況ではある。
そして俺達は……。
「俺は、王の意志を継ごうと思う。人と龍が分かり合える世界。殺し合う必要のない世界を、目指してみたい」
俺がそう言うと、スレイは目を丸くして、笑った。左目は紫のままだった。更に俺の右目は、イオのような碧く澄んだ瞳へと変質していた。
体内に溶け込んだファンタズマの能力を、俺達は”ブレイブ・アーツ”と呼ぶことにした。目の色が変化したのも、その影響なのだろうか。
恐らく永遠にこのままなのだろう。
この情報は、騎士団内でもごく一部の人間にしか知らされていない。
「絵空事ね。でも、やるんでしょ?」
「笑うなよ。もちろん、やるつもりだ」
そしてその為に、何が必要かもわかっている。
「オオトモ、力を貸してくれ」
「そのつもりだよ。国家の安寧には、平和が不可欠。言ってしまえば龍を全滅させるか、分かり合うか。だが前者では、また人は人同士、戦乱の世を繰り返すだろう。示す必要がある。分かり合えるということを」
「あぁ。その為に、龍と人を、テーブルに着かせるために必要なこと。それは世界征服だ」
「同意見だ」
「馬鹿なの、この二人……」
政庁最上階の議長室。スレイが紅茶を淹れながら呆れている。
「まずは人の意志を統一する。一枚岩にならなければ、多種族との対話など不可能だ」
「オオトモの言う通りだな」
「だからジーク、その足掛かりが必要になる」
「……大陸統一か」
「そう。まず大陸四国を全て吸収する」
「それって侵略じゃないの?」
スレイがもっともらしい意見を述べる。俺もそう思ったが、実際メリットはある。
「ビンセントの件もある。既にいくつかの国に、人に化ける龍が潜んでいると考えて行動した方がいい。今は沿岸部の防衛は落ち着いているが、いつ背中から刺されるか分からない」
「そうね……」
「それに、空路や航路が危険な今の世界は、国家間のやり取りが少ない。外交や情報交換の為にも、大陸を統一して、人と技術を集め、外界への航路を確立したいと考えている」
この大陸は孤島だ。外界から隔絶されてしまっている。オオトモの考えは正しいだろう。
「じゃ、決まりね」
「スレイ、お前はどうするんだ?」
「私はアンタを手伝うの。ユキヅキの遺言みたいなものね」
「そうか……わかった……ありがとう」
「別に」
別の問題も山積みではある。メディアへの情報統制。ホームレスが魔龍だったのかどうか、未だにニュースでは話題に挙がる。
そしてビンセントが地下で行っていた実験。
反転人化の技術に関して、実験施設が発見された。現在調査を進めているが、恐らくまだ見ぬ“爆弾”があると、俺はにらんでいる。
ギシミア騎士団は、大陸最強部隊として名を馳せることになる。
そしてその中で、一際異彩を放つ二人の騎士。ジーク・フリードリヒとスレイ・グラディア。
彼らの強さに畏怖と敬意を払い、人々はこう呼んだ。
ギシミアのドラゴン、と。
オオトモを議長とした独裁政権も、支持率が安定し、社会経済も改善の兆候が見え始めた。
「やることが沢山ある」
それが彼の口癖だ。
龍伐隊は新たに、一命を取り留めたコンドウを総司令に迎えて新しく立ち上がる。
教育方針から抜本的な改善案を出し合い、今までをはるかに上回る質の高い隊員達が育っている。
旧龍伐隊からの乗り換え時、適性検査で弾かれた者も多い。アグローらをはじめとする腐ったミカン達は淘汰された。
ファンタズマに適合しているという理由だけで採用されていた人材たちも、新たな基準で精査された。
利権の味が忘れられない企業経営者連中と、龍伐隊リストラ組が結託してクーデターを画策しているという噂はいまだ健在で、依然気が抜けない状況ではある。
そして俺達は……。
「俺は、王の意志を継ごうと思う。人と龍が分かり合える世界。殺し合う必要のない世界を、目指してみたい」
俺がそう言うと、スレイは目を丸くして、笑った。左目は紫のままだった。更に俺の右目は、イオのような碧く澄んだ瞳へと変質していた。
体内に溶け込んだファンタズマの能力を、俺達は”ブレイブ・アーツ”と呼ぶことにした。目の色が変化したのも、その影響なのだろうか。
恐らく永遠にこのままなのだろう。
この情報は、騎士団内でもごく一部の人間にしか知らされていない。
「絵空事ね。でも、やるんでしょ?」
「笑うなよ。もちろん、やるつもりだ」
そしてその為に、何が必要かもわかっている。
「オオトモ、力を貸してくれ」
「そのつもりだよ。国家の安寧には、平和が不可欠。言ってしまえば龍を全滅させるか、分かり合うか。だが前者では、また人は人同士、戦乱の世を繰り返すだろう。示す必要がある。分かり合えるということを」
「あぁ。その為に、龍と人を、テーブルに着かせるために必要なこと。それは世界征服だ」
「同意見だ」
「馬鹿なの、この二人……」
政庁最上階の議長室。スレイが紅茶を淹れながら呆れている。
「まずは人の意志を統一する。一枚岩にならなければ、多種族との対話など不可能だ」
「オオトモの言う通りだな」
「だからジーク、その足掛かりが必要になる」
「……大陸統一か」
「そう。まず大陸四国を全て吸収する」
「それって侵略じゃないの?」
スレイがもっともらしい意見を述べる。俺もそう思ったが、実際メリットはある。
「ビンセントの件もある。既にいくつかの国に、人に化ける龍が潜んでいると考えて行動した方がいい。今は沿岸部の防衛は落ち着いているが、いつ背中から刺されるか分からない」
「そうね……」
「それに、空路や航路が危険な今の世界は、国家間のやり取りが少ない。外交や情報交換の為にも、大陸を統一して、人と技術を集め、外界への航路を確立したいと考えている」
この大陸は孤島だ。外界から隔絶されてしまっている。オオトモの考えは正しいだろう。
「じゃ、決まりね」
「スレイ、お前はどうするんだ?」
「私はアンタを手伝うの。ユキヅキの遺言みたいなものね」
「そうか……わかった……ありがとう」
「別に」
別の問題も山積みではある。メディアへの情報統制。ホームレスが魔龍だったのかどうか、未だにニュースでは話題に挙がる。
そしてビンセントが地下で行っていた実験。
反転人化の技術に関して、実験施設が発見された。現在調査を進めているが、恐らくまだ見ぬ“爆弾”があると、俺はにらんでいる。
ギシミア騎士団は、大陸最強部隊として名を馳せることになる。
そしてその中で、一際異彩を放つ二人の騎士。ジーク・フリードリヒとスレイ・グラディア。
彼らの強さに畏怖と敬意を払い、人々はこう呼んだ。
ギシミアのドラゴン、と。