第46話

文字数 950文字

 一気に距離が詰まる。ヨハンは再び球体を用意するが、ジークははじめから防御エネルギーを展開した状態で突っ込んでいた。これなら残した攻撃エネルギーで削りを入れることができるだろう。

 ヨハンはその一手を読んでいた。

 彼が用意した球体。ジークの予想通り、生成した時点でブレスか爆発かを選ぶ必要がある。そして今回の球体はブレス球体であった。爆風寄りの威力の爆弾で自衛すれば、薄い防御で突っ込む選択肢が生まれる。だが爆風を防げる程度の防御では、ブレスの直撃には耐えられない。

「死ね」

 球体からブレスが放たれる。ジークはそれを綺麗に躱してみせた。

“何っ!?”

 そしてジークが、刀を構える。右下から左上へ、斬り上げるような構えだ。つまり、刀身が全て彼の身体と、それを纏う黒いエネルギーによって隠された。

 対するヨハンは口からブレスを吐こうとしていた。その最中、ジークが刀身を身体で隠していることに気付く。

“剣尾が来る!”

 直感だった。ジークなら身体で刀身を誤魔化し、同時に使えない攻撃を疑似的に同時に放つと、理解していた。そして……。

“剣尾が現れるのは、本体の目線の先……!”

 ジークはヨハンの右後方のビルを見ていた。

“躱して、ブレスを放つ! 奴に避けるのは不可能!”

 違和感。それは切迫する戦闘で決して無視できない、軽微な綻び。ヨハンは自身の思考が偏っていることに気付いた。考えたのではなく、そう考えさせられたのだと。

 ジークは刀の構えを右上からの袈裟へ切り替えた。刀身が少し見えていた。

“諮った”

 ここまで接近を許した。一瞬意識を外にやったせいで、他の選択肢を選べなかったヨハン。最後、口からブレスを放つ。ジークが右上に躱し、それを追うように一度、ブレスが曲がった。読み切っていたジークは加速してそれをも躱す。だが背後に消えるはずのブレスがまた曲がってジークを襲った。

“死ね!”

 ジークはそれを見ずに、急上昇して躱す。

「なん……」

 真上からヨハンの顔面に、ジーク渾身の一撃が叩き込まれた。

 結局最後にジークが放った攻撃はただ一つ、ファンタズマに直接ブレスエネルギーを纏わせた一撃だった。それはジークが最初に選択肢から外した攻撃。

 だからこそ、ヨハンも無意識に選択肢から廃し、来るはずの無い攻撃に備えていたのだ。
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