第56話

文字数 960文字

 途切れた意識が戻る。牢に閉じ込められているようだ。頭の後ろに鈍い痛みが残っているのを感じて、後ろから殴られて失神したのだと推察出来た。

「腹、減ったな……」

 鉄格子が付いた窓から指す光は山吹色に暮れていた。

「あ……」

 気が付いた時には、涙が流れていた。

 信頼しているつもりで、ただ利用されているだけだったのだろうか。ただただ、悔しさがこみ上げる。アレを再び手にした時、妙な確信があった。明らかに初めて触った時と違う。ファンタズマと、分かり合えるような、より理解が深まるような、濁った水が徐々に綺麗になるような。

「ユキ……ヅキ……」

 もう彼女を密告しようという気すら、なかった。それは共に命がけで危機を乗り越えたこと。彼女の決意の片鱗を見たこと。吊橋効果と言われればそれまでなのだろうが、俺はもうその気になっていた。

 ……きっと俺だけが、そうなっていた。

 なんで……どうしてこんな……まだ二十二歳で、死刑なんて……。

「……」

 俺はブドウ糖が足りていない頭で、ゆっくり考えた。事の発端はどこからか。それは恐らく王の討伐作戦。だがそれは俺が考えたいことではない。

「俺の物語は、どこから始まった……?」

 そうだ。俺はなぜ、戦闘部隊に配属されたんだ?やはりそこが一番おかしい。ファンタズマに適合していないと結果が出ていた。それもおかしい。

 俺の物語は、おかしいことだらけだが、何か一つ、ある一つのことでまとまりそうな気がする。

「イオ、お前の目的はなんだ……?」

 俺が喰ったという、イオの魂。それは戦闘中以外には決して話しかけてこない。そして戦闘に関する内容以外に語ることもない。

 きっと俺が喰ったのは、彼の戦闘面での才能、能力なのだろう。不釣り合いな能力を身体に落とし込むには、ああやって意識を乗っ取って、でも俺の感覚は残す。“身体をこうやって動かすんだ”って、実践訓練をするのが手っ取り早いのか。

 身体や意識を乗っ取られていても、俺の意識は残っている。プロ選手の霊が乗り移るスポーツ物の主人公のようだ。身体が正しい理想的な動かし方を覚えてきて、“うずうず”する程度にはスパルタ教育が効いている。そんな気がする。

「もう、試せそうにないけどな……」

「!!!!!!!!!!!!」

「まさか!?」

 突然警報が鳴り響く。聞き覚えのある音だ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み