第67話
文字数 2,151文字
再び、不確定要素が起きた。ジークは自然と選択肢を予想した。一発放った伝播ブレスエネルギーが、どの浮遊剣から飛び出すかを。そして正解は、伝播エネルギーも分割され、それらが全ての浮遊剣から放たれる、であった。
もしダミアンがあの時ジークの気持ちを折っていなければ。ジークの感覚が鋭敏に研ぎ澄まされたままだったら、もしかしたらジークは予想できていたのかもしれないし、それでも予想できなかったかもしれない。
今となっては、もう確かめる方法はない。
「浮遊剣を動かしていたのは……イオ、お前だったのか?」
イオは何も答えない。万死へと魂を移した彼の声を、ジークはもう二度と聞くことは無いだろうと、そう感じていた。
「ありがとう……」
ジークは次を考える。ひとまず内地の脅威を排除し、沿岸部の援護に向かうのが適しているだろう。万死不刀にイオの魂が引き継がれ、脳を使うのがジークだけになったことで、イオの動きを再現しても昏倒することが無くなったのは非常に大きい要素だった。
「よし」
「ま……だ……だ……」
「?」
誰の声だ。イオの声じゃない。
ジークがそう考えて、不安に任せて振り向く。だが、既に遅かった。
「クソカスがああああああああああああ!!!!」
ダミアンの叫びだった。脳漿を垂れ流し、体中から血を流している。その身体は再生を止め、死にゆくばかりだ。
「“縛り”の“反動”を見せてやるよ、オウサマ」
「なんだと?」
朽ち行く透けた体躯が青白く明滅していき、ダミアンは天を仰ぐ。その輝きの正体は、ダミアンの体内にある“宝玉”と呼ばれる器官。魔龍だけに備わる、特別な能力の根幹とされている器官である。
ジークは直感的に、その明滅は不吉だと悟った。
「させるかっ!」
何をするかは不明だが“これ以上何もさせまい”と、身体が先に動いていた。
“首を取る”
ジークの狙いは正しかったが、ダミアンの方が早かった。
「じゃあね!」
ダミアンの口というより、全身から赤いブレスエネルギーが溢れ出し、一つのブレス光線となって天に向かって伸びていく。
「これは……」
そのブレス光線はジークを狙わず、ある方向へと伸びていく。
「……」
ジークは残ったダミアンの死体を放置して、その方向へと飛翔した。光線は雲を貫いて闇夜へ消えていく。
「ジーク様っ!」
「ユキヅキ! 無事だったか!」
離脱したユキヅキとジークが合流する。
「ダミアンを!?」
「あぁ、殺した。だが殺し切れていなかった……最後の悪足搔きだといいんだが、あれは何をしようとしているんだ?」
「私にも……わかりません……ジーク様っ! あれ!!」
「!?」
ユキヅキが指さす先。雲の向こうが赤く丸く大きく輝き始めた。
「あれは……魔法陣の類か?」
ジークは見えたそのままの感想を、そのまま口にした。雲が赤い雷鳴の様に輝き、どこか神々しさを感じる。
そしてジークは気付く。その中心点が、政庁のちょうど真上に位置していると。
「狙いは……政庁か!?」
「ジーク様っ!?」
ジークは一気に加速して政庁に向かう。
「オオトモっ! 聞いているかっ!! ダミアンの“最後っ屁”が来る! 政庁があぶ……」
「こちらでも観測している。あれは……」
赤い光の円が収束して、消えた。そして、まるで食器用洗剤のコマーシャルで油が丸く広がるようにして、雲が一気に晴れた。その中心に、赫い凶星がいた。
「「「!!!!」」」
その凶星は、非常にゆっくりと落下している。
それを見た全員が、全ての動物が、本能で理解した。
“死”
そして、龍伐隊の中でもファンタズマを扱える者だけが、その本質を理解していた。
“これは縛りだ”
すべてに対する平等な“死”を本能的恐怖によって伝え、そして逃げるまでの時間を与えるための、低速落下。
そしてダミアンの命を引き換えに発動する術。
それらの縛りによって生じる破壊エネルギーの総量まで、彼らには伝わっていた。
誰もが恐怖で固まる中、ジークだけが我先にと、政庁の上に迫る凶星へと向かっていた。
「ジーク!?」
その様子を、ビンセント総司令も遠目から見て、続くようにして加速した。
落下して、恐らく爆発するであろう凶星を、高度が高いうちに受け止めてしまう。それがジークの腹積もりだった。
「だが……」
彼の持つファンタズマ“万死不刀”では、必要要素が不足していた。
「ジークっ!」
そこにビンセント総司令が駆け付ける。
「司令……流石です! 盾をください。デカくて、頑丈なやつを!」
「……わかった!」
ビンセントはファンタズマを起動し、全ての盾を一度消滅させる。そして出来得る最大出力で、大きく頑丈な盾を生成した。その盾は、自重で落下する盾だった。
「ジーク! サイズと強度を考えると、空間への固定は難しい!」
「いえ! 十分ですっ!」
ジークは盾の下に潜り込んで、万死不刀を押し付けるようにして下から盾を押し上げる。更に“支配”の能力を盾全体に行き渡らせた。
「これでいけるっ!」
そしてジークは、凶星に衝突した。
「!!!!!!!!!!!!!!」
凄まじい轟音と共に、凶星が炸裂した。爆発は一過性のモノではなく、着弾点から、延々と凶悪なブレスエネルギーが放出し続けていた。
盾に受け止められたそれは、巨大な傘の様に広がっていく。
もしダミアンがあの時ジークの気持ちを折っていなければ。ジークの感覚が鋭敏に研ぎ澄まされたままだったら、もしかしたらジークは予想できていたのかもしれないし、それでも予想できなかったかもしれない。
今となっては、もう確かめる方法はない。
「浮遊剣を動かしていたのは……イオ、お前だったのか?」
イオは何も答えない。万死へと魂を移した彼の声を、ジークはもう二度と聞くことは無いだろうと、そう感じていた。
「ありがとう……」
ジークは次を考える。ひとまず内地の脅威を排除し、沿岸部の援護に向かうのが適しているだろう。万死不刀にイオの魂が引き継がれ、脳を使うのがジークだけになったことで、イオの動きを再現しても昏倒することが無くなったのは非常に大きい要素だった。
「よし」
「ま……だ……だ……」
「?」
誰の声だ。イオの声じゃない。
ジークがそう考えて、不安に任せて振り向く。だが、既に遅かった。
「クソカスがああああああああああああ!!!!」
ダミアンの叫びだった。脳漿を垂れ流し、体中から血を流している。その身体は再生を止め、死にゆくばかりだ。
「“縛り”の“反動”を見せてやるよ、オウサマ」
「なんだと?」
朽ち行く透けた体躯が青白く明滅していき、ダミアンは天を仰ぐ。その輝きの正体は、ダミアンの体内にある“宝玉”と呼ばれる器官。魔龍だけに備わる、特別な能力の根幹とされている器官である。
ジークは直感的に、その明滅は不吉だと悟った。
「させるかっ!」
何をするかは不明だが“これ以上何もさせまい”と、身体が先に動いていた。
“首を取る”
ジークの狙いは正しかったが、ダミアンの方が早かった。
「じゃあね!」
ダミアンの口というより、全身から赤いブレスエネルギーが溢れ出し、一つのブレス光線となって天に向かって伸びていく。
「これは……」
そのブレス光線はジークを狙わず、ある方向へと伸びていく。
「……」
ジークは残ったダミアンの死体を放置して、その方向へと飛翔した。光線は雲を貫いて闇夜へ消えていく。
「ジーク様っ!」
「ユキヅキ! 無事だったか!」
離脱したユキヅキとジークが合流する。
「ダミアンを!?」
「あぁ、殺した。だが殺し切れていなかった……最後の悪足搔きだといいんだが、あれは何をしようとしているんだ?」
「私にも……わかりません……ジーク様っ! あれ!!」
「!?」
ユキヅキが指さす先。雲の向こうが赤く丸く大きく輝き始めた。
「あれは……魔法陣の類か?」
ジークは見えたそのままの感想を、そのまま口にした。雲が赤い雷鳴の様に輝き、どこか神々しさを感じる。
そしてジークは気付く。その中心点が、政庁のちょうど真上に位置していると。
「狙いは……政庁か!?」
「ジーク様っ!?」
ジークは一気に加速して政庁に向かう。
「オオトモっ! 聞いているかっ!! ダミアンの“最後っ屁”が来る! 政庁があぶ……」
「こちらでも観測している。あれは……」
赤い光の円が収束して、消えた。そして、まるで食器用洗剤のコマーシャルで油が丸く広がるようにして、雲が一気に晴れた。その中心に、赫い凶星がいた。
「「「!!!!」」」
その凶星は、非常にゆっくりと落下している。
それを見た全員が、全ての動物が、本能で理解した。
“死”
そして、龍伐隊の中でもファンタズマを扱える者だけが、その本質を理解していた。
“これは縛りだ”
すべてに対する平等な“死”を本能的恐怖によって伝え、そして逃げるまでの時間を与えるための、低速落下。
そしてダミアンの命を引き換えに発動する術。
それらの縛りによって生じる破壊エネルギーの総量まで、彼らには伝わっていた。
誰もが恐怖で固まる中、ジークだけが我先にと、政庁の上に迫る凶星へと向かっていた。
「ジーク!?」
その様子を、ビンセント総司令も遠目から見て、続くようにして加速した。
落下して、恐らく爆発するであろう凶星を、高度が高いうちに受け止めてしまう。それがジークの腹積もりだった。
「だが……」
彼の持つファンタズマ“万死不刀”では、必要要素が不足していた。
「ジークっ!」
そこにビンセント総司令が駆け付ける。
「司令……流石です! 盾をください。デカくて、頑丈なやつを!」
「……わかった!」
ビンセントはファンタズマを起動し、全ての盾を一度消滅させる。そして出来得る最大出力で、大きく頑丈な盾を生成した。その盾は、自重で落下する盾だった。
「ジーク! サイズと強度を考えると、空間への固定は難しい!」
「いえ! 十分ですっ!」
ジークは盾の下に潜り込んで、万死不刀を押し付けるようにして下から盾を押し上げる。更に“支配”の能力を盾全体に行き渡らせた。
「これでいけるっ!」
そしてジークは、凶星に衝突した。
「!!!!!!!!!!!!!!」
凄まじい轟音と共に、凶星が炸裂した。爆発は一過性のモノではなく、着弾点から、延々と凶悪なブレスエネルギーが放出し続けていた。
盾に受け止められたそれは、巨大な傘の様に広がっていく。