第89話
文字数 1,306文字
だが実際、先ほどオオトモが投じた一石は巨石だ。相手の機嫌次第で、戦争が起こってもおかしくない。
“不当に国を治めていた悪徳政治家が、お宅を天下り先に選んだ”
と言っているようなもの。それに激昂するイーサンも、結局タケナカ大臣その他が行っていた政治がいかに愚かだったかを物語っている。
「ふむ。議長、そうですね……私としても、疑われたままというのは面白くない」
「はい」
「妥協案と言えば恐縮なのですが、こういうのはどうでしょうか?」
そう言って皇帝は、いくつかの提案をした。
◆“爆弾”の捜索は自由に行って構わない。
◆滞在中に生じる龍との戦闘行為については、皇帝及び騎士団長(イーサン)の許可なしには行えない。
◆仮に爆弾を発見できた場合、双方協議のもとでその後の対応を決定する。(必要に応じて人数は絞ってもよい)
とし、オオトモ議長はそれに応じることとした。
「ですが、一つだけ。もしギシミアの民に命の危険が生じた場合は、交戦規定の限りではないと、そう付け加えていただきたいのです。咄嗟の自衛にまで許可というのは、道理が通らないでしょう?」
「それもそうですね。ではそのようにしましょう」
皇帝が秘書のような男に指示を出し、すぐに書面が出来上がる。双方調印のもと、皇帝と議長の提案誓約書が完成した。原本二通はそれぞれ保管とし、オオトモは一通分のコピー控えも受け取った。
「では、宴ましょう。同じ大陸、運命共同体なのですから」
皇帝が盃を掲げ、皆が乾杯する。ピリついた空気感が一気に溶けたような気がして、オオトモはネクタイをしていないシャツのボタンを更に一つ開けた。
「たまには、いいかな?」
オオトモはジークとスレイに伺いを立てた。公務で飲酒をしたいという、我儘である。
「俺は構わない。一通り見たが、問題はないだろう」
ジークは、オオトモが議長として休みなく働いていることを知っていた。労いの意味も込めて、羽を伸ばしてもらうことにした。
「私も!?」
スレイは、いつも通りだった。二人に伺いを立てつつも、顔も体もビュッフェテーブルに向いている。
「いいよ。なぁ? ジーク」
「問題無い。スレイ、何かあれば」
「やった!!!! ジーク、わかってるって。」
スレイは一目散にビュッフェテーブルに対して掃討作戦を開始。オオトモも続こうとしたが、イーサンに呼び止められた。
「議長と……ジーク・フリードリヒ殿はこちらへ」
イーサンが渋々手招きする先は、皇帝が掛ける円卓であった。
「我が国自慢の一流シェフによる、海鮮フルコースを提供させていただきます」
「私も!!!」
両手に、皿一杯に盛られた料理を持ったスレイが、頬を赤らめてそう言った。イーサンは、既に酔い始めているスレイへの苛立ちを隠さずに皇帝を見た。
「手も早ければ、食も早い……。ではスレイ・グラディア殿もどうぞ。何卒、ご無礼の無いよう」
「わかってるってぇ!!! でも酒の席は無礼講って言葉もあるわよ! オオトモ! 久しぶりに朝まで飲むわよ!」
「会場は二十一時までだ!」
案の定快諾する皇帝と、調子に乗るスレイ。イーサンの苛立ちが頂点に達したところで、ジークと目が合った。そして、全てを察した。
“不当に国を治めていた悪徳政治家が、お宅を天下り先に選んだ”
と言っているようなもの。それに激昂するイーサンも、結局タケナカ大臣その他が行っていた政治がいかに愚かだったかを物語っている。
「ふむ。議長、そうですね……私としても、疑われたままというのは面白くない」
「はい」
「妥協案と言えば恐縮なのですが、こういうのはどうでしょうか?」
そう言って皇帝は、いくつかの提案をした。
◆“爆弾”の捜索は自由に行って構わない。
◆滞在中に生じる龍との戦闘行為については、皇帝及び騎士団長(イーサン)の許可なしには行えない。
◆仮に爆弾を発見できた場合、双方協議のもとでその後の対応を決定する。(必要に応じて人数は絞ってもよい)
とし、オオトモ議長はそれに応じることとした。
「ですが、一つだけ。もしギシミアの民に命の危険が生じた場合は、交戦規定の限りではないと、そう付け加えていただきたいのです。咄嗟の自衛にまで許可というのは、道理が通らないでしょう?」
「それもそうですね。ではそのようにしましょう」
皇帝が秘書のような男に指示を出し、すぐに書面が出来上がる。双方調印のもと、皇帝と議長の提案誓約書が完成した。原本二通はそれぞれ保管とし、オオトモは一通分のコピー控えも受け取った。
「では、宴ましょう。同じ大陸、運命共同体なのですから」
皇帝が盃を掲げ、皆が乾杯する。ピリついた空気感が一気に溶けたような気がして、オオトモはネクタイをしていないシャツのボタンを更に一つ開けた。
「たまには、いいかな?」
オオトモはジークとスレイに伺いを立てた。公務で飲酒をしたいという、我儘である。
「俺は構わない。一通り見たが、問題はないだろう」
ジークは、オオトモが議長として休みなく働いていることを知っていた。労いの意味も込めて、羽を伸ばしてもらうことにした。
「私も!?」
スレイは、いつも通りだった。二人に伺いを立てつつも、顔も体もビュッフェテーブルに向いている。
「いいよ。なぁ? ジーク」
「問題無い。スレイ、何かあれば」
「やった!!!! ジーク、わかってるって。」
スレイは一目散にビュッフェテーブルに対して掃討作戦を開始。オオトモも続こうとしたが、イーサンに呼び止められた。
「議長と……ジーク・フリードリヒ殿はこちらへ」
イーサンが渋々手招きする先は、皇帝が掛ける円卓であった。
「我が国自慢の一流シェフによる、海鮮フルコースを提供させていただきます」
「私も!!!」
両手に、皿一杯に盛られた料理を持ったスレイが、頬を赤らめてそう言った。イーサンは、既に酔い始めているスレイへの苛立ちを隠さずに皇帝を見た。
「手も早ければ、食も早い……。ではスレイ・グラディア殿もどうぞ。何卒、ご無礼の無いよう」
「わかってるってぇ!!! でも酒の席は無礼講って言葉もあるわよ! オオトモ! 久しぶりに朝まで飲むわよ!」
「会場は二十一時までだ!」
案の定快諾する皇帝と、調子に乗るスレイ。イーサンの苛立ちが頂点に達したところで、ジークと目が合った。そして、全てを察した。