第75話
文字数 1,471文字
「ユキヅキぃ!!」
俺は飛翔し、ヨハンを向ける。だがユキヅキは襲ってこない。
「ユキヅキ……?」
次の瞬間、ユキヅキの首が切断された。俺には何が起きたのか理解できなかった。
「!?」
だが、ビンセントが何かをしたという確信はあった。
“ラインハルトが超攻撃的能力なら、反転している今は防御寄りの能力。奴が龍に戻る前に、殺し切るっ!”
懐に飛び込むため、加速する。結果として俺の考えは正しかった。だが、誤算もあった。
「もらった!」
万死不刀が首に届く。勝利の確信は、音を立てて断たれた。
「!」
俺の右腕が切断された。
「う、うわああああああああああああああ!!!!」
俺は力いっぱい叫んだ。痛みと恐怖を誤魔化そうとするように。
「腕がっ!」
空間に盾が生成されていた。空間に生成するということは、その間にある物質を破壊できるということ……という解釈か。
「この使い方は見せたことが無かったからな。縦の断面より小さい物質ならこれで破壊できる。まったく、ユキヅキもダメだ。女というのは、つくづく制御が難しい。殺せと言ったら、殺すんだよ」
その間も俺は叫び続けた。いや、抑えられなかった。
「五月蠅いぞ」
ビンセントに綻びが生じた。感情を殺して戦っていた男の挙動に、初めて感情が介入した。
俺はその隙を待っていた。
「死ね」
ヨハンを向け、引き金を引く。ブレス弾を顔面に叩き込むために。
「!!」
視界が一瞬で、二度塞がったように感じた。
盾は二枚、すぐに生成されていた。一枚はビンセントを襲う光弾を受け止めた。そしてもう一つが、伸ばした俺の左腕を切断していた。
「……くそっ」
「喚いていたのは演技か? それが本性か……大した胆力だが、甘かったな」
俺は武器を失った。戦う気力も。
もう、何も残っていない……。全てこの男が、動かしてきたものの結果なのか……。
「いいか、ジーク」
ビンセントは何やら装置を操作し始めた。柱が開いて、中に入っていたのは養液と思われるものに浸かった龍王の亡骸だった。頭部と、右半身を欠いていた。
そう、一目で王と分かる。ホルマリン漬けのような姿で、身体の一部が欠損していても、尚威厳というか、圧のようなものを放っている。
「これは……!」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。まさか、こんな近くにあったとは……。
「分かった気がする……。お前がどうやって、龍伐隊の長になったのか」
「ま、そういうことだ」
大臣連中め、手土産に尻尾を振って、祖国の伝統工芸技術を活かしてファンタズマを作った。その技術を売って、亡命しようとしていたのか!
「奴らはもう、初めからお前が龍だと知っていたんだなっ!」
「当然」
「この野郎……」
意識が朦朧としてきた。両腕を失って血を流しているから当然だろう。横たわるスレイも、痙攣して、瞳孔が開きつつある。もうすぐ、死ぬな。
「ジーク。私はこの世界のエンターテインメントというのが良くわからん」
「あぁ、そうかい」
「なぜ黒幕は、因縁の相手、自身の目的にとって最大の障害になる相手を始末するのに、不確定要素を使うのだろうな? 回りくどい装置、解除可能な爆弾、部下に引き金を引かせて、無駄話でチャンスを与える」
「じゃないとエンタメが成り立たないからだろ」
「ふむ。だがリアリズムから逸脱しすぎたアンリアルは、それはフィクションではなくチープで非現実的な、稚拙な演出になってしまう。そうは思わないか?」
「何をっ!!」
骨を断つ音が、聞こえた。
「だから私は自分の手で決着をつける。確実にな……」
そして俺は、首を欠いた俺の胴体を見上げていた。
俺は飛翔し、ヨハンを向ける。だがユキヅキは襲ってこない。
「ユキヅキ……?」
次の瞬間、ユキヅキの首が切断された。俺には何が起きたのか理解できなかった。
「!?」
だが、ビンセントが何かをしたという確信はあった。
“ラインハルトが超攻撃的能力なら、反転している今は防御寄りの能力。奴が龍に戻る前に、殺し切るっ!”
懐に飛び込むため、加速する。結果として俺の考えは正しかった。だが、誤算もあった。
「もらった!」
万死不刀が首に届く。勝利の確信は、音を立てて断たれた。
「!」
俺の右腕が切断された。
「う、うわああああああああああああああ!!!!」
俺は力いっぱい叫んだ。痛みと恐怖を誤魔化そうとするように。
「腕がっ!」
空間に盾が生成されていた。空間に生成するということは、その間にある物質を破壊できるということ……という解釈か。
「この使い方は見せたことが無かったからな。縦の断面より小さい物質ならこれで破壊できる。まったく、ユキヅキもダメだ。女というのは、つくづく制御が難しい。殺せと言ったら、殺すんだよ」
その間も俺は叫び続けた。いや、抑えられなかった。
「五月蠅いぞ」
ビンセントに綻びが生じた。感情を殺して戦っていた男の挙動に、初めて感情が介入した。
俺はその隙を待っていた。
「死ね」
ヨハンを向け、引き金を引く。ブレス弾を顔面に叩き込むために。
「!!」
視界が一瞬で、二度塞がったように感じた。
盾は二枚、すぐに生成されていた。一枚はビンセントを襲う光弾を受け止めた。そしてもう一つが、伸ばした俺の左腕を切断していた。
「……くそっ」
「喚いていたのは演技か? それが本性か……大した胆力だが、甘かったな」
俺は武器を失った。戦う気力も。
もう、何も残っていない……。全てこの男が、動かしてきたものの結果なのか……。
「いいか、ジーク」
ビンセントは何やら装置を操作し始めた。柱が開いて、中に入っていたのは養液と思われるものに浸かった龍王の亡骸だった。頭部と、右半身を欠いていた。
そう、一目で王と分かる。ホルマリン漬けのような姿で、身体の一部が欠損していても、尚威厳というか、圧のようなものを放っている。
「これは……!」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。まさか、こんな近くにあったとは……。
「分かった気がする……。お前がどうやって、龍伐隊の長になったのか」
「ま、そういうことだ」
大臣連中め、手土産に尻尾を振って、祖国の伝統工芸技術を活かしてファンタズマを作った。その技術を売って、亡命しようとしていたのか!
「奴らはもう、初めからお前が龍だと知っていたんだなっ!」
「当然」
「この野郎……」
意識が朦朧としてきた。両腕を失って血を流しているから当然だろう。横たわるスレイも、痙攣して、瞳孔が開きつつある。もうすぐ、死ぬな。
「ジーク。私はこの世界のエンターテインメントというのが良くわからん」
「あぁ、そうかい」
「なぜ黒幕は、因縁の相手、自身の目的にとって最大の障害になる相手を始末するのに、不確定要素を使うのだろうな? 回りくどい装置、解除可能な爆弾、部下に引き金を引かせて、無駄話でチャンスを与える」
「じゃないとエンタメが成り立たないからだろ」
「ふむ。だがリアリズムから逸脱しすぎたアンリアルは、それはフィクションではなくチープで非現実的な、稚拙な演出になってしまう。そうは思わないか?」
「何をっ!!」
骨を断つ音が、聞こえた。
「だから私は自分の手で決着をつける。確実にな……」
そして俺は、首を欠いた俺の胴体を見上げていた。