第二幕(7)

文字数 459文字

(微笑む)傷、治りましたね。
ああ、注射の痕ね。(自分の体をさする)あの変な薬も、すっかり抜けたんじゃないかな。僕、もう、急にキレたりしなくなったでしょう?
そんなことは、別に……
顔に書いてあったよ、こいつヤラれてるぜって。
思ってないって。

二人、笑う。

何の薬だったんだろうね。
自白剤じゃないかな、訊問のたびに打たれていたから。
あるいは、抑制剤かもしれない。
抑制剤? 何の?
(まじめに)発情ホルモンの。
(どぎまぎして)ああ、そう。

収容所で、そうした性欲抑制剤を、実験的に用いているという噂を聞いたことがある。

まさかと思っていたが、ただの自白剤なら、君があんな中毒症状におちいることもなかったんじゃないだろうか。

そうか、僕の体は君たちのとちがうから、過剰反応を起こしたのかも?
あり得る。
まいったな。「変質者」と呼ばれるだけじゃ足りなかったんだ。
そんなひどいことを?

みんなに言われてましたよ。
まあ、君らから見れば僕は、いつも男の体でいるから、ずーっと発情しっぱなしに見えるんだろう。(照れて)そういうわけじゃないんだけどね……。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色