第四幕(3)

文字数 425文字

扉を開け、足を踏み入れた。光と、熱と、食べ物の匂いと湯気と人の声に満ち満ちた部屋に。

7、8人の顔が、ぎょっとしたように僕らを見た。

(弱々しいが、落ちついて)もてなしを、頼む。

どよめき、そして歓待。これがカーハイド人気質[かたぎ]であるらしい。遠来の客と見るや、何も訊かずに受け入れ、僕らを温め、食べさせ、休ませてくれた。

宿のあるじは太っ腹で、誰かが遠慮がちに僕らの冬山登山の訳を尋ねようとしたときに、こう言ってさえぎってくれた――「よくある話だろ、昔から。高貴なお方が追放されるなんてね。正義は天のみぞ知る、と言うじゃないか」。

こんな小さな村でもラジオはあるから、皆、エストラヴェンの追放も、彼をかくまえば犯罪だということも知っている。でも、僕らのことを誰だか知りませんでしたと言って、白[しら]を切ることはできるわけだ。

エストラヴェンは、気のいい村人たちに災難がおよぶことを、恐れていた。

村に泊まって3日目の晩、彼は言った。

ゲンリー。ここを出よう。
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登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

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