第三幕(7)

文字数 292文字

この星に来る前、僕は、真実を語る方法を一つしか知らなかった。

率直に、誠実に、語ればいいと思っていた。


だが、セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェンに出会って、僕は知った──

ある種の真実は、
沈黙によってしか語れず、

さらにある種の真実は、
物語によってしか語り得ないのだと。

エストラヴェンは僕の隣、ほんの50センチのところにいた。

僕は、手をのばして、その手にふれようとした。

(泣いている)さわるな……

そのとき僕は初めて、いまだかつてゲセン人の誰一人として、
手袋をはめない素手の手を、さわらせてくれたことがないと気がついた。




もしも、
僕が、君の手を握っていたら、
どうなっていたのだろう?

音楽。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色