第三幕(1)

文字数 426文字

そりは、すでに軽かった。食糧の大半を、僕らは食べつくしていたのだ。
エストラヴェンは始めから僕の食べる分を1、2割増しに計算してくれていたけれど、それでも僕は腹が減ってしょうがなかった。
ゲセン人は僕から見ると、驚くほど少食だ。大きな獣がいないためだろう、肉食の習慣もほとんどない。
エストラヴェンは淡々としていた。こいつの落ち着きはどこから来るのだろう。
この極限の飢餓状態を、まるで他人事[ひとごと]のように、人生そのものだね、などと言うのだ。
カーハイドに言い伝えがあってね。人は皆、背負えるだけのカディクを背負って生まれてくるというんだ。それを食べつくしたら、おしまい。
つまり、終わりに近づくほど、人生は軽くなっていくものらしい。
彼の言わんとするところを理解するには、僕はまだ若すぎ、そして腹ペコすぎた。
眠っては、地球の食い物の夢を見た。
ラムチョップ、アップルパイ、ドーナツ、そしてコーヒー!

だが、僕らの最大の危機を引き起こしたのは、食糧難ではなかった。
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登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

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