第二幕(10)
文字数 487文字
そりの走行距離計では25キロだが、直線距離では12キロも進んでいない。崖にはばまれては迂回するというくりかえしが、もう2日も続いている。
アイは疲労困憊[こんぱい]し、不機嫌。今にも泣き出しそうな顔なのに、なぜか必死に泣くのをがまんしている。なぜだろう。泣くと何か不都合でもあるのだろうか?
男のプライドとか面子[メンツ]とか、そういうことをこいつに言ってもむだだ。男も女も変化の一部でしかないこいつらにとっては、男らしさなんて「おたまじゃくしらしさ」とか「さなぎらしさ」みたいなものなんだから。
たとえ危険でも近道があると、アイは必ずそちらを選ぼうとする。無謀なやつだ。無謀で、無防備だ。そもそも、いちばん弱いところを、いつも体の外にぶらさげているのだからしかたない。はらはらする。力は私の倍もあるのに、あぶなっかしくて見ていられない。
音楽。