第一幕(4)
文字数 1,036文字
持てるだけの物を持った。市街を抜け、西へ向かった。国境へ。
誰かに何かをたくせば、たくされた者に危険がおよぶ。別れを告げることもできなかった。
風が吹き、黒い木々がざわめく。
明後日の六の刻になれば、たとえ私が殺されても殺人ではない。人はただ、正義がおこなわれたと叫ぶだけだろう。
この宇宙に散らばった、人類の住む星同士の同盟――
あの話が真実なら、われわれは孤立している場合ではない。外の世界に門戸を閉ざし、ちまちまと国境争いなどしている場合ではない。
手遅れにならないうちにと思っていたのだ。
収容所の看守たちの銃はどれも装填されていない。囚人を殺す必要がないからだ。処刑は、飢えと寒さと絶望にまかされている。
「そうか。いつもの所へ出しといてくれ。じきに凍るだろう」
看守は三十人から四十人、囚人は百五、六十人。一人として健全な者はなく、まだ宵の口というのに大半が死んだように眠っている。
蚕棚にぎっしり並べられた寝袋のうちに――
ひとつだけ、あった。頭一つ分はみだした寝袋が。地球人のかれはわれわれのあいだではずば抜けて背が高い、ゲセン人の身長に合わせた寝袋に、おさまりきらなかったのだ。
「そうか。いつもの所へ出しといてくれ。じきに凍るだろう」
音楽。