第二幕(12)
文字数 573文字
氷がもろく、あちこちに穴があいている。太陽は明るく、北風は強い。
そりに削られた氷のかけらが、まるで銀の針金がうすいガラスの板にふれるようなかすかなひびきをたてて、右や左の深淵に落ちていく――はてしなく。
空から青みが消え、大地から影が消え、大気が白く濃くなりはじめていた。こういう「白い日」の恐ろしさに、僕はまだ気づいていなかった。
エストラヴェンがそりを引き、僕は後ろから押していた。自分の握っている横棒だけを見つめて、一心に。
そのとき突然、その横棒が手からはじけとびそうになった。
僕はとっさに棒をつかんで「おい!」と叫んだ。エストラヴェンが急にスピードアップしたと思ったのだ。
だが、そりは、前のめりになったまま止まっていた。
エストラヴェンの姿は消えていた。
そりの下に、クレヴァスのふちがあった。
エストラヴェンはクレヴァスに落ち、そりにかろうじて引っかかっていたのだ。
エストラヴェンはクレヴァスに落ち、そりにかろうじて引っかかっていたのだ。
支えているのは僕の体重だけだった。
そりの3分の2はすでに宙づり状態で、じりじりと傾いていく。