第二幕(12)

文字数 571文字

氷がもろく、あちこちに穴があいている。太陽は明るく、北風は強い。

そりに削られた氷のかけらが、まるで銀の針金がうすいガラスの板にふれるようなかすかなひびきをたてて、右や左の深淵に落ちていく――はてしなく。

空から青みが消え、大地から影が消え、大気が白く濃くなりはじめていた。こういう「白い日」の恐ろしさに、僕はまだ気づいていなかった。

エストラヴェンがそりを引き、僕は後ろから押していた、自分の握っている横棒だけを見つめて、一心に。

そのとき突然、その横棒が手からはじけとびそうになった。

僕はとっさに棒をつかんで「おい!」と叫んだ、エストラヴェンが急にスピードアップしたと思ったのだ。

だが、そりは、前のめりになったまま止まっていた。

エストラヴェンの姿は消えていた。


そりの下に、クレヴァスのふちがあった。エストラヴェンはクレヴァスに落ち、そりにかろうじて引っかかっていたのだ。

支えているのは僕の体重だけだった。そりの3分の2はすでに宙づり状態で、じりじりと傾いていく。

セレム!
彼の手がクレヴァスのふちにかかった。僕が渾身の力で引き上げると、彼はよじのぼってきて、氷の上に突っ伏した。唇はチアノーゼを起こし、顔の片側がすりむけていた。
セレム。セレムーー
(あえぎつつ)青い。
何?

(ほとんど気を失いかけながら)青い――どこまでも青い――光で――いっぱいだ――

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登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

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