第四幕(1)

文字数 430文字

ハーラハッド・アナー。冬第四の月、九日。

出発の日から数えて、75日目。


もはや運ぶほどの食糧もない。荷物を二つにまとめて背負い、スキーをはき、そりを捨てた。

私が最後にそりを撫で、「よくやってくれた」としみじみ言うと、ゲンリーは不思議そうな顔をしていた。物質文明の最先端から来たかれには、ものにいつくしみと感謝をささげるという感覚が、わからないらしい。

気温はマイナス10度。スキー日和で、勾配もなだらかだ。ゲンリーがもう少しスキーに慣れていたらとは思うが、それも酷というものだ。
くそっ。宇宙船に志願する前に、クロスカントリー特訓コースと断食道場に通っておくんだった!(泣)

国境を超えたすぐの所にある、隣国オーゴレインの通信施設にまっすぐ向かうつもりだった。私のかつての学友サードン・チェネウィッチが局長をつとめている。必ず力になってくれるはずだ。

だが、予定の日をすでに5日も過ぎている。食糧はよくもってあと3日だ。国境の手前の村に立ち寄り、助けを乞うべきか、迷う。

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登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

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