第二幕(11)

文字数 328文字

行軍の最中は、めったに口をきかない。口をあけると零下40度の空気が入り込んで、歯やのどや肺を切り裂くからだ。口をしっかり閉じて鼻で呼吸をしなければならないが、気をつけていないと鼻の穴も凍りついて窒息してしまう。

息は吐くそばから凍って、パリパリと音をたてた。まるで、遠くで火花がはぜるような、水晶の雨が降るような音だ。

オドーニ・ニマー。
冬第三の月、二十一日。

この逃避行が始まってから61日目のことだった。前方の虚空に、大きな黒い影が立ちはだかっていた。

ハース。あれは――
岩山だ。きっと、エシャホスの岩山だ。

風の吹く薄闇のなかを僕らは歩みつづけた、旅の終わりが近いことをあらわすエシャホスの姿に勇気づけられて。


だが、そりはクレヴァス地帯に突入しようとしていた。

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登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

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