第四幕(9)
文字数 446文字
どうやって向こう岸に着き、どうやって雪の坂を昇り、
通信局にたどり着いたのか、覚えていない。
分厚いガラスの扉の前で、倒れたこと。
抱き起こし、しっかりしなさいと呼びかけてくれた誰かの腕と声が、セレムに似ているような気がして、安心して眠りに落ちたこと。
そんな記憶が、切れ切れに残っているだけだ。
気がついたときは、暖かく清潔なベッドで、点滴を打たれていた。
エキュメンの宇宙船の着陸地点に選ばれたのは、広大な無人の泥炭地だった。
僕は毛布にくるまれ、車椅子で連れて行かれた。
宇宙船はきれいにバランスをとりながら降りてきた。
たそがれの淡い光の中、大きな銀色の魚のように。
そして、タラップから、僕の同胞たちが降りてきた。
地球人、ハイン人、セティアン人、知っているはずの見知らぬ生き物たち、
なめらかなスーツの下に乳房や股間をふくらませ、高すぎる声や低すぎる声で「おおゲンリー」と叫び、
かわるがわる僕を抱きしめ——
僕の手を握った。