第四幕(9)

文字数 446文字

どうやって向こう岸に着き、どうやって雪の坂を昇り、通信局にたどり着いたのか、覚えていない。


分厚いガラスの扉の前で、倒れたこと。

抱き起こし、しっかりしなさいと呼びかけてくれた誰かの腕と声が、セレムに似ているような気がして、安心して眠りに落ちたこと。

そんな記憶が、切れ切れに残っているだけだ。


気がついたときは、暖かく清潔なベッドで、点滴を打たれていた。

エキュメンの宇宙船の着陸地点に選ばれたのは、広大な無人の泥炭地だった。僕は毛布にくるまれ、車椅子で連れて行かれた。


宇宙船はきれいにバランスをとりながら降りてきた。たそがれの淡い光の中、大きな銀色の魚のように。

そして、タラップから、僕の同胞たちが降りてきた。

地球人、ハイン人、セティアン人、知っているはずの見知らぬ生き物たち、なめらかなスーツの下に乳房や股間をふくらませ、高すぎる声や低すぎる声で「おおゲンリー」と叫び、かわるがわる僕を抱きしめ——


僕の手を握った。

(悲痛に)手を!

こともあろうに、手を!

セレムが決して握ってくれなかった僕の手を……

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登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

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