第二幕(6)

文字数 545文字

オディルニ・サーン。
すなわちゲセン暦の冬、第一の月の二十四日。

いつものように日記をつけていると、アイが寝袋のなかから、「まめですね」と言う。これは私自身のためばかりでなく、いずれ故郷のエストレに記録として送るものなのだと説明した。エストレを思い出すと辛くなるので、話題を変えるつもりで、かれにたずねた。

――君のご両親は、お元気なのですか?

いえ、亡くなりました。70年前に。
え? でも、君はまだ――
29です。
どういうこと?
僕がタイムジャンプをしたからです。(笑う)前にも説明したんだけどな。
そういえば……
相対性理論の話はもう省略しますけどね、光速に近い速さの宇宙船のなかでは、地上に比べて時間のたつのがゆっくりになるのですよ。ようするに、僕は地球を出てからまだ7年なんだけど、そのあいだに地球では120年がたってしまったわけ。
たしかにその説明はしてもらっていたが、私は根本的には理解していなかったのだ。この、目の前にいる青年が、それだけの時空間を超えてやってきたということの意味を。
好きな子も、いるにはいたんですけどね。とっくに結婚して、今ではひ孫に囲まれているでしょうね――まだ生きていれば。
そう。
ええ。
(短い沈黙の後)帰る場所がないのは、私だけかと思っていた。

(快活に)お互いさまですよ。

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登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

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